小説

『涙の確証』加持稜誠(『竹取物語』)

 
 古い雑居ビルの地下にあるその会場は、その入り口からして世間とは一線を画す、熱気と臭気に包まれていた。会場へ続く地下への階段に、所狭しと群れをなすドルヲタ達。あからさまにそれを匂わす服装と、何を言ってるか分からない会話で盛り上がる彼らの中に入っていく事を考えると、僕は二の足を踏んだ。
 「どうする……?」
 僕はもう一度ビラを見つめなおした。
 そして……


 僕は、ひしめくドルヲタ達の中に独り、飛び込んで行った……


 ライブはもう開演していたようで、ドルヲタ達は皆額に汗しながら、合いの手やコール、歌に合わせてのダンスなど、己の全てを推しに捧げるかの如く盛り上がっていた。それに気圧され、僕の蚤の心臓は更に委縮するばかりだった。
 そして彼女たちの出番。
 同胞と思しき面々は、ペンライトやら手作りの応援グッズを手にし、僕も心なしか前のめりになる。


「それでは、次のグループ、オトギーズの3人です! どうぞ!」
MCの掛け声と共に、ステージに三人の女の子達が飛び出してくる。一人目、二人目、そして最後に出てきた女の子に、僕は目が釘付けになった。
三人は定位置に立つと、それぞれ自己紹介を始めた。他の二人のファン達の狂喜のコールを聞き流し、そして彼女の番。
「月に変わって~! 推し、OKよ! 昔話アイドル、オトギーズの『かぐや姫』担当こと、竹取みいなです!」
彼女が顔の前で月の形を模した手を、ハートに変えた途端、
「みいな! みいな! みいな! 月に帰っちゃ嫌ですよ!」
一糸乱れぬコールが観客席から沸き起こった。
「それは~、みんなの応援次第かな~?」
そして巻き起こるみいなコール。

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