小説

『猫ムコ入り』淡島間(『犬婿入り(日本各地)』)

 今日、娘が婚約者を連れてくる。それで朝から、不機嫌なのだ。
 マコは我々の一人娘だ。私が24歳、妻が23歳の時の子だ。年を取ってからできた子は可愛い、と言うが、別に若くしてできた子も可愛い。特に、マコは生まれついての美形であるから、尚のこと可愛い。
この世にたった一人の美しい我が子。可愛さ極まるとは、このことだ。
 私が猫かわいがりするものだから、いつまで経ってもマコが嫁に行かないのだ、とワケの分からんことを言う奴がいる。大いに余計な世話だ。
 女はクリスマスケーキと同じで、24歳を過ぎれば売れ残り、などとからかう昭和脳もいる。笑止。マコとクリスマスケーキの共通点と言えば、色が白いことだけだ。近年の我が家では、ブッシュドノエルなどというチョコレートケーキが定番だから、いよいよマコとは似通わない。
 何より、マコを嫁に出そうなどと考えたことはない。我が家への婿入りを承知する奴でなければ、許さない。
この条件のせいで、マコの結婚のハードルが上がっている、と妻は文句を言う。ならば好都合だ。そのハードル、キリマンジャロの標高まで上げてやる。
「ちょっと、その顔、何とかならないの?」
 居間で腕を組んでいると、妻が見かねたように言う。
「鏡で見てきたら?」
 それで、洗面所まで行って見てみた。眉間のシワはマリアナ海溝のように深く、歯を食いしばった口元は、絶えず痙攣している。
それは良いとして、久しぶりにまじまじと見た自分の顔は、自己認識よりずっと年上に見えて、軽くショックだった。
「年とったね、お互いに」
 ソファーに戻って、妻に言うと、
「今頃気づいたの。老けて当然だって。マコが32歳なんだから」
 と、ひとしきり笑った後で、
「だから、あんまりキツいこと言っちゃだめだからね」
 真顔に戻って、釘を差す。またその話か。
「メグちゃんはどこの馬の骨とも分からん奴が来ても平気なのかよ?」
と、やり返すと、
「あたしは早く孫の顔見たいもーん」
 歌うように切り返して、妻は台所へ行ってしまった。
 孫……? マコの子……! いよいよ面白くない。
 昨年、「おじいちゃん」になった兄貴は、「孫がこんなに可愛いもんだとは思わなかった。お前も早くマコに産んでもらうといいよ、ハッハッハ!」と、たわけたことを言ったので、それきり国交断絶だ。
 とにかく、私はその手の話が大嫌いだ。可愛いマコに私以外の男が近づくなんて、考えたくもない。どんなに高学歴で高収入で高身長な男であろうとも、散々にイビって追い出してやる。マコはやらん。絶対に。

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