小説

『月一会議のシンデレラ』真銅ひろし(『シンデレラ』)

「あ、いえ、この1ヶ月考えたんですが、理子先生の言う通り“美人”だから一発逆転という所は否定できないと思うんです。でも実際生きているとそう言った側面もあるんじゃないかと思いますし、無くすまでいかなくてもいいんじゃないかと。」
 恐る恐る口にする言葉に理子先生は先ほどと変わらず表情を変えずにこちらを見ている。
「あ、でもそれだけじゃなくて、もし、シンデレラが・・・その・・・例えばあまり、心が、美しくなかったらって考えてみたんです。」
 みんながこちらを注目している。
「その場合、魔法使いのおばあさんは現れなかったんじゃないでしょうか?辛い境遇にもジッと耐えてけなげに働いていたから、 そのご褒美としてドレスやガラスの靴、馬車を用意してくれたんだと思います。」
「・・・。」
 理子先生は黙って話を聞いてくれている。けれどその表情がどんな心境なのかは分からない。
「王子に見初められるかどうかは置いといて、一般論として美人でも性格の悪い生意気なシンデレラだったら、皆さん助けたいと思うでしょうか?この物語の注目ポイントはこの部分でもあるんじゃないでしょうか?」
「その・・・。」
 理子先生がゆっくりと口を開く。
「その部分は分かりました。確かにそういった事があるのかもしれません。でも、この物語の一番のキモは見初められるところです。やはり美人だったから見初められたんじゃないですか?そこに性格や境遇の問題は関係ないと思います。」
「・・・そうだと思います。でも、シンデレラの始めの望みは『王子に見初めれる事』だったんでしょうか?始めの望みは『舞踏会に行きたい』だったはずです。その先でどんな出会いを果たすかは誰にも分かりません。タラレバの話をしだすときりがありませんが、私の結論としては『魔法使いの説明不足』という事になるので、そこはちゃんと私達が園児たちに『なんでシンデレラの望みが叶ったのか』を説明してあげなきゃいけない部分なのかと思います。」
 この言葉に場の雰囲気が少し和んだ。みんな多少は納得してくれているみたいで頷いてくれている人もいる。
「・・・。」
 しかし理子先生は表情を変えない。
「なるほど、よく分かりました・・・どうでしょうか?理子先生、無くすまでは行かなくても今の美和先生の言った通り、足りないところは私達で補足していく方が園児たちへの影響が少なくていいんじゃないでしょうか?」
 と園長先生。理子先生は少し考え、その言葉にゆっくりと頷く。
「分かりました。そこの部分をきちんと補足して貰えるのであればいいんじゃないでしょうか。」
 ほっと胸を撫で下ろす。この意見に反対されたら何も言い返す事が出来なかった。
 そしてうちの幼稚園でのシンデレラは魔法使いが魔法をかけてあげるときに「いつでも心優しく、辛いことがあってもじっと耐えて頑張っているから。」と付け加える事になった。

 家に帰り、この事を和也に報告した。
「良かったじゃん、解決して。」

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