小説

『月一会議のシンデレラ』真銅ひろし(『シンデレラ』)

 月一の会議。
 幼稚園の今後の予定やら問題があった事など話し解決していく。
「あの、シンデレラの読み聞かせをやめたいんですが。」
 会議の終盤、手を真っ直ぐ上げてこう提案したのはこの園内で一番のベテランである理子先生だ。
「ちょっと聞こえは悪いと思うんですが、シンデレラの“美人で一発逆転”みたいなストーリーが子供達に良い影響を与えないんじゃないかと日頃から感じていました。」
 突然の提案に周りは一瞬沈黙する。理子先生の顔はいたって真剣だ。
「・・・理子先生、やめるかどうかはともかくもうちょっと詳しく教えていただけますか?」
 園長先生がその場を和ますように穏やかに話す。
「そのままなんですが、シンデレラはやっぱり容姿が一番関係していると思うんです。“美人”だから王子に選ばれた。どんなに普段が不幸だろうと、行いが正しかろうと、優しかろうと、そこには“美人”であることが王子に選ばれる絶対条件だったと思うんです。だから子供達には安易にそんな考えになって欲しくないと思うんです。」
 理子先生は冷静だけれど熱を持って語っている。もともと厳格な人で幼児教育にも意識が高い人だ。
「・・・でも、あの話好きな子は多いですよ。」
 私の隣の真由美先生が遠慮がちに意見をする。この幼稚園に入って3年目の先生。
「好きとか嫌いとかの話じゃなくて、教育的に良くないんじゃないですかって提案してるんです。」
 理子先生はそれを一蹴する。
 しかし私は心の中で「ちょっと大げさかな・・・」と思ってしまった。幼稚園児はなんだかんだ言って楽しく元気に遊ばせてやるのが一番なんじゃないかと思う。だけどそんな事は理子先生の前では恐ろしくて言えない。
「たかが読み聞かせかもしれませんが、童話は子供たちへの影響が大きいです。」
「だけど理子先生、うちでやめても他で読んでしまう可能性はあるのであまり意味がないかもしれませんよ。」
 他の先生から意見が上がる。
「それは仕方がない事です。けれど今回はこの幼稚園内での事に限っての話です。よその事を言い出したら何も出来なくなってしまいます。」
 ぴしゃりと答える。ごもっともな答えだ。
「・・・。」
 いきなりの事でびっくりはしたけれど、理子先生が言わんとしている事は理解できる。その証拠に絶対反対と言う人が出て来ない。
「・・・でも、まぁ、こういった事は直ぐに決められるものじゃないので、次回に持ち越しましょう。各自の意見をまとめておいて下さい。」
 と園長先生がその場を収め会議は終わった。

 意見・・・。

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