小説

『ピノキオの鼻のような由真のテイル』もりまりこ(『ピノキオの冒険』)

 とその声で読んでいたらクラスのほとんどという人間が由真の声に、日輪子じゃんかって、その時流行っていたらしいマンガの主人公の名前を重ねて、揶揄した。

 由真は耐えきれずに、小さな声をふるわせながら泣いた。
 教師はそれなりにクラスの心ない生徒たちをたしなめたけど、それはパンドラの箱をあけたかのように由真いじめの始まりでもあった。

 あの時わたしは見た。
 萩原朔太郎のあの詩を読んでいた由真のスカートの裾からなにか見えた。

 尻尾のようなやわらかいふさふさの、触ったらもふもふしているようなものだった。
 でも、それに気づいたのはたぶんわたしだけみたいで、クラスの誰もがそこには触れなかった。
 あんなに尻尾が見えているのに誰一人ツッコまない。
 その時たぶん、みんなには見えていないんだなってわたしは気づいた。

 あのウィルスが流行する前。保健室登校をしばらくしていた由真に保健室教諭の下平先生の目を盗んで、由真の尻尾をみたことをわたしは話してみた。

 気のせいかな、由真、みんなにイジメられそうになったり嫌なこと言われた時って、って
 わたしが話はじめたら、
「樹里ちゃんみえるの?」

 ってきらきらした声と瞳で聞いてきた。

 幼稚園の時からなのって由真は言う。イジメられて緊張で死んでしまいそうになる時にはいつもしっぽが生えるんだ。一時的に。
 あれを見える人はほんとうに少ない。
 わたしのおじいちゃんぐらいだったよ。
「わたし、もしかしたらピノキオみたいにおじいちゃんに作られたのかもしれないって思うことがある」
 由真が誰の視線も気にせずに喋れるのはたぶん下平先生とわたしぐらいなんだろう。
「だから、もしおじいちゃんが作ってくれたのなら、なんにも感じない心にしてほしかったとおもうことがあるよ」
 それは由真だけじゃないよってわたしは思った。
 由真もいじめられて辛いだろうけどわたしだっていろいろあるよって。
「わたしいつまで尻尾とかはやすんだろう」

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