小説

『ベッドの上の攻防』のらすけ(『ヤマタノオロチ』)

 だが、俺はビジネスマンでありヒーローなのだ。もちろん、この1つですべてが解決できるとは思っていない。1つだけでなく、2つ、3つ。いわゆる、ご機嫌取りの波状攻撃。
 新聞紙のような見た目で、触るだけでガサガサと大きな音が鳴るおもちゃ。
 口に入れたり、噛んだりするのが目的のおもちゃ。
 ぬいぐるみ1号、2号、V3。
 とどめに、寝ている顔の上で、子供が好きなキャラクターが回るメリー。優しい音でそのキャラクターのテーマソングが流れながらゆっくりと回る。
 ベッドの上が子供の楽園。カラフルな色と、さまざまなキャラクター。
 右手におもちゃ。左手におもちゃ。右を向けば、怪獣を接待するぬいぐるみ。左を向いても、優しい笑顔のぬいぐるみ。
 両手に花。大人であれば、まさに、ハーレム状態。
 その様子を俯瞰に見て、俺はほくそ笑む。
 ここまでのハーレム状態で落ちない怪獣はいない。
 ありきたりな手段であるが、大切なお客様や、大きな商談の際には、たいていこの手を使う。これによって悪い結果になったことはない。
 ベッドの上の怪獣も、右に左にキョロキョロする。いつの間にか咆哮が静まっていた。
 あとは、仕上げのお酒……いや、ミルクを待つばかり。
 手を挙げて店員さんを呼びたいところではあるが、誰もいない。いや、仮に妻がいたとしても、調子に乗るなとばかりに冷たい視線が刺さるだけだ。
 ベッドを離れ、哺乳瓶を触る。
 少し温度が高い気がする。念のため、もう少し下げたい。
 ボウルの中の水は暖かくなっているため、水を汲みなおし、再度哺乳瓶を付けた。
 お客様を放置するわけにはいかない。
 颯爽と怪獣の元に戻る。今のところ異常なし。手配したキャストたちが良い仕事をしている。怪獣のご機嫌をとる良い仕事をしている。
 怪獣は両手のおもちゃを振り回して、ご満悦のようである。
 だが、裏方である俺が業務を手間取ることで、この状況が一瞬で崩れるのは確か。しかも、長時間はもたないということも理解している。
 再度、哺乳瓶の元へ駆け寄る。但し、慌てず、静かに、早急に。
 温度が下がっていることを確認。理想的な人肌だ。
 その出来栄えに感激している後ろで、催促の声。ぐずりだす怪獣。、すぐに咆哮に変わる。
 「ただいま、お持ちします」
 水から引き揚げた哺乳瓶を引き上げ、手早くタオルでふき取る。大事に抱えて怪獣の元へ。
 おもちゃが手から離れている。そして、そのおもちゃは手が届かないところに。
 完全に投げている。怪獣は気分を害している。大人の世界では、物を投げるほどの態度といえば、怒り狂っているという証拠である。
 「ドンペリ……いえ、最高級のミルクでございます」
 そう言いながら、哺乳瓶の乳首を口に突っ込んだ。

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