小説

『古びたゴール』大村恭子(『わがままな巨人』)

 少年は助走をつけて、飛び上がり、ボールを投げる。と、それはきれいに命中し、バスケットゴールは元気よくうなり声を上げた。
「すごいじゃないか、どうしたんだ!」
 私が近付くと、少年はぱっと私を振り返る。その姿に私は目を疑った。
 いつもの少年だと思っていたのは、死んだはずの幸哉だった。
「幸哉? どうしてお前……」
 何も言わずに私に向かって微笑む幸哉を、私は抱き締めた。
 小さな身体は、温かく私を抱き締め返した。これは、夢なのだろうか。
「おじいちゃん、帰ろう」
「そうだな、帰ろう」
 私は涙ながらに答えた。

 

 
 晴れた日の昼下がり。子供達は、はしゃぎながらいつもの庭に集まった。
 すると、縁側でこの庭の主であるおじいさんが、目を閉じて眠っている。
「あれ? おじいちゃんどうしたの?」
 うちの一人が触れようとすると、
「起こさない方がいいよ、寝てるんだ」
 と別の子供が制した。
「やろやろ、昨日の続きだ!」
 その一声で、みんながバスケットゴールを囲ってゲームをはじめた。
 おじいさんはその目の前で、幸せそうな笑顔で眠りについていた。もう覚める事のない眠りに。

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