小説

『鑑定眼』三坂輝(『魔術』)

「私の魔術などというものは、あなたでも使おうと思えば使えるのです」
 彼は条件を示した。欲を出してはいけない。私はうなずいた。

 教えは三か月で終わった。
 特別な技術を教えてくれたわけでなく、多くの時間をいっしょに過ごしただけだった。
 彼は「欲を出してはいけない」と何度も言った。「欲を出さずにいれば、正しい価値がわかる」と。
 何が作用したのかは分からないが、私には新しい物の見方が生まれた。これと感じた作品には、遅れて社会的な評価がついてくるようになった。
 自信を持った私は少しずつ、自分の目利きを他人にも話すようになった。例の会合でも口にするようにした。はじめのうちは誰も信じてはいなかったが、社会的に評価される作品ばかりを私が先物買いをしていることを皆が知ってくると、私を見る目は変わった。
 皆は不思議がった。
 そのうち、皆のなかでは「あいつは魔術師の弟子となって、目利きの力を得たのだ」ということで統一見解がなされたようだった。
「君も、その目利きで、さぞ良いコレクションを手に入れたんだろう?」
 まわりの社長たちは言ってくる。
 実際、私は多くの作品を買い求め、それはたしかに「良いコレクション」と呼ばれてもおかしくはなかった。彼らが言う良いコレクションとは値段の高いもののことだ。
 しかし、私は作品の良し悪しなんて世の中の評価ではないと考えていた。まったく意味がない。私はただ私が良いと思うものを買い求めているだけである。

 ある日のことだ。
 社長たちが私の自宅に集まった。コレクションを観たいと言ってきたからだ。
 今までにそんなことはなかった。私は喜んで彼らを招き、コレクションを一つずつ見せていった。
 そのたびに嘆息が漏れる。私は誇らしかった。私が掘り出した作品たちが認められているのだから。
 そのうち一人が言った。
「なあ、この作品はいくらで買ったんだ? 今はいくらだい?」
 私は答えた。彼らから再び嘆息が漏れた。幾ばくか湿り気を帯びているようだった。
「では、これは?」
 次の一人が、別の作品について聞いてきた。そしてもう一人が、また一人が。
 彼らは決まって聞いた。
「それで、これはこれから先も、評価が上がるのかい?」
 私はゆっくりとうなずいた。
「その見通し! 魔術としか言いようがないな!」
 そして、彼らは私に聞いてきた。

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