小説

『幻のお供』池田啓真(『桃太郎』)

 「何だろうなあ。不思議な気分だ」
 王亀は笑う。
 「お前は不思議な男だな。桃太郎。お前が足を運ぶ理由は個人的なもののように思える。だが、恨みがあるわけでも、因縁があるわけでもない。それなのにお前は幾里もの道を超えて鬼ヶ島へ向かう。不思議な男だよ」
 「確かに。俺はえらく個人的な理由で進んでいるのかもしれない」
 「そのように見える」
 「鬼が先か。俺が先か」
 「面白い問いだな」
 「王亀。お前はどう思う?」
 「俺に問うことではないだろう?お前しか知り得ないことだ」
 桃太郎はふっと笑う。
 「剣八。お前はどうする?」
 剣八は二人の会話に聞き入っていたところ、突然話を振られ、戸惑う。
 「俺についてくるか?」
 「俺は……もともと大義など興味がないです」
 「そうか」
 「……はい。あなたの強さに惹かれた、それだけです」
 桃太郎はバッと起き上がる。
 「では鬼ヶ島に向かうとしようか」
 桃太郎はそのまま王亀に背を向けて道を引き返していく。
 剣八は桃太郎の背と王亀を交互に見て、その場を動けずにいる。
 「あ、あの……」
 王亀はふっと笑う。その両の眼がくしゃっと潰れる。
 「では私は帰るとしよう」
 王亀は池に向かって歩いていく。
 亀の文様が緑の水しぶきに飲み込まれる。
 剣八は桃太郎の方に向かって走っていく。
 剣八が桃太郎に追いつくと、桃太郎はほおを緩めている。
 桃太郎が口を開く。
 「剣八」
 「はい」
 「仲間は何人が良いだろう?」
 「多ければ多いほど良いのでは?」
 「いやあ、それではつまらない」
 「……」
 「多勢に無勢。それでこそ足を運ぶ価値があるだろう?」
 「はあ」
 桃太郎は巾着袋を取り出す。
 紐を解き、熊笹の歯を広げ、きびだんごを手の平の上に出す。
 桃太郎の手の平には四つのきびだんご。
 桃太郎は愉快そうに笑う。
 「四だな」
 桃太郎は二つを熊笹で包んで、巾着袋に戻し、手のひらの上に残った二つのきびだんごのうちの一つを剣八に手渡す。桃太郎はきびだんごを口に放り込む。
 「あと二人だ」
 桃太郎は前を向いて歩いていく。
 桃太郎は腰に刺してある軍扇を引き抜き、揚々と仰ぐ。
 淡い朱色の桃の絵がはためくのをぼうっと見つめ、剣八は手のひらの上のきびだんごを口に放り込んだ。

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