小説

『月に願う』吉倉妙(『赤い靴』)

 それから私は、よろよろと外へ出ました。
 辺りはもう真っ暗で、こんな罪深い私の頬にも夜風は優しく、まん丸お月様が美しかったです。
 待ち合わせをしているふうを装って、コンビニ横で月を見上げると、今夜の月は「願いを叶えるよ」と言わんばかりに冴えわたり、私は一縷の望みを月に託しました。
 真っ白な塩の浸透圧でナメクジが消えてしまうように、月の光が私に何らかの作用を及ぼしてくれないだろうか……と。
 私は月に向かい「私を消してください」と祈りました。
 そのとたん、私の頭の中に、アンデルセンの赤い靴の少女が、自分の罪をつぐなうために命乞いをした場面が浮かび上がってきました。
 残酷でしたが、心ひかれた場面です。
 子どもの時の予感は的中したのだとぼんやり思いながら、切り落とされた少女の足が、赤い靴を履いたまま踊りながら森の奥へと消えていったように、自分の分身のように愛しかった滝田もどこかへ行ってしまうのだろうと確信していました。
  私はもう一度月に向かい、今度は目を閉じて祈りました。
「お月様、赤い靴の話を思い出させてくれてありがとう。大それたことをしてしまった私ですが、何卒どうぞお見守りください」
 ――それは自分の罪に直面する私の、最後の願いでした。

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