小説

『四諸茶々村拾遺』相馬光(『遠野物語』)

 そういえば、ひいひいばあちゃんがこの辺で一回死にかけたらしいんですよ。でも生きて帰ってきたらしくて。「亀様に助けてもらった」っつって。だから両親や親戚から「亀神さん所にお礼言いに行くぞ!」ってなって、あっ、そうだ。亀神神社だ。あの時行こうとしてた神社。ま、俺あんまそういうの信じないんですけど、一応行って手合わせてきました。

幌呂垣嘉子・ほか編(2020)『四諸茶々村拾遺 487』より

 時空管理局に歪みを指摘されたのは昼前頃だ。
 コントロールルームで昼飯を食べながらモニタリングをしていたところ本局から入電した。
「1920年と2020年の四諸茶々村近辺に異常が出ている。原因不明。リモートでの修正は不可能、至急現場へ」というメッセージが出た。飛行型の『時 A-003』で歪みの地点へ行った。
 トンネル付近を境に100年のズレを検知。1920年側に2020年の男性1名の進入を確認。
 1920年の老人女性を山道の隅で寝かせていた。恐らく救助とみられる。
 一体なぜ彼はここに来たのか。そしてなぜ時空が歪んだのか。
 しかし、激しい雷雨による天候不順のため、歪みの原因を調べるのは非常に困難だった。
 ひとまず2020年の男性を救出すべく、浮遊光を当て男性を機内へ運ぶ。だが、男性は失神しており聴取には至らず。
 そこで雷が右翼を直撃。ハンドリングが効かなくなり雑木林に落下。その際に何本か木を倒した。男性と私は機内の緊急防護機能のおかげで無事だったが、機体に激しい損傷が認められ、再度の飛行は困難と判断した。この時点で私は元の年代に戻ることを諦めた。
 男性は気を失ったままのため、1人で周辺を探索した。
 そこで、目の前に倒れている亀の偶像を見つける。先祖からの言い伝えで「カメガミサマを大切にしろ」という言葉を思い出した。もはや意味は形骸化しており、言葉のみが伝わっている状態だったが、なぜだかその時思い出した。元来倒れているものや散らばったものを見ると片付けたくなる性格なので、亀の偶像を元の位置と思われる土台の部分に戻した。
 そこからの記憶はない。
 気付いたらコントロールルームにいた。
 夢かと思ったが、手に泥が付いていたので実際に起こったことだと判断する。
 車庫へ行くと破損した『時 A-003』があった。中には旧世代の『自転車』と呼ばれるものと『Uber』と書かれた四角い型のリュックサックがあった。どちらも2020年代の男性の持ち物と思われるが、なぜ機内に置かれていたかの詳細は不明だ。
 上層部との面談でも同じことを伝えたが、「全くもって不可解」と信じてもらえず今に至る。
 ちなみに亀の偶像との因果も現在検証中だ。恐らく関係ないとは思うが、半年経った今もどうやって帰れたのか、いまだに究明出来ていない。

幌呂垣メイロ・ほか編(2120)『四諸茶々村拾遺 1204』より

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