小説

『カレーか不倫』真銅ひろし(『ロミオとジュリエット』)

「いや、謝らないで下さい。変な事聞いちゃいましたかね。」
「いえ、そんな事ないです。」
 そういって黙って食事に手をつける。そしてこちらに合わせるように直人さんも黙って食事をする。
 帰りの車の中でも私達は黙った。いつもならここからホテルに行くのだが、今日はまっすぐに私の家の方に車を走らせた。静かで、気まずい空気が流れる車内で、『私達の今後について』聞こうかどうか迷う。
「・・・また、会って貰えますか?」
 こちらの考えを見透かしたような言葉に思わず運転している直人さんの顔を見る。
「もちろん沙織さんが良ければですけど。なんだか今日で終わってしまう気がしてしまったので。」
そう言っている横顔が少し寂しそうに見える。
「えっと・・・。」
言いよどんでしまう。良いか悪いかの間で揺れ動く。
「大丈夫です。すみません、変な事を聞いてしまって。」
直人さんはこちらの答えを待たずに会話を打ち切った。どのように感じていたのかは分からないが、このあとはお互い何も話さずに終わった。

 いい加減にどちらかにしなければいけない。
 そう思い、またしても美香を近くの喫茶店へと呼び出した。
「終わらせた方がいい。」
「やっぱり?」
「だって沙織、完全に体だけじゃなくなってるじゃん。」
「・・・。」
 何も言い返す言葉が見つからない。
「それは向こうも一緒。その直人さんっていう人も家庭を持ってるのにあんたに夢中になってるよ。」
「それは分かんないけど・・・。」
「どっちでもいいよ、本気でも遊ばれてても。どっちでも沙織が本気になりかけてる時点でこの先待ってるのは最悪だと思うよ。」
「・・・。」
 やはり、そうか。誰が聞いてもハッピーエンドで終わるような状況じゃない。
「それでも自分ではもう止められないんでしょ。」
「えっと、でもね・・・。」
「はいかいいえで答えて。」
 ぴしゃりと言葉を遮られる。
「・・・うん。」
素直にうなずく。ここで変に取り繕ってもろくなことにはならないだろう。
「ねぇ、ロミオとジュリエットって知ってる?」
「え?」
美香は表情を変えずに聞いてくる。
「シェイクスピアの?」
「そう。」
「えっと、聞いたことはあるけど。恋愛の話でしょ。」
「最後、どうなったか知ってる?」
「最後・・・。」

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