小説

『マスク売りのおっさん』室市雅則(『マッチ売りの少女』)

 ん? なんか騒がしいような。せっかく装備したのに外すの嫌だな。ま、片耳だけ。
 ん? 破裂するような音? 花火?
 音だけじゃ分からないな。片目だけ外そう。
 ん? さっきの若者たちが花火で遊んでいるのか。こんなところで花火をやるなんて、何考えてんだよ。
 『ピュー』ってロケット花火か。
 本当に何考えているんだろ。何食って生きてんだろ。
 あれ、なんか『ピュー』が近づいて来ているような。
 しかも、結構たくさん。
 『ピューピューピュー』といっぱい。
 犬のアップリケスウェットの兄ちゃんがこっち向いて大声出している。
 よく聞こえない。
 読唇術を使うか。やれやれ。
 あ
 ぶ
 な
 い
 危ない?
 ああ、ロケット花火がこちらに向かって。

 パーン! パーン! パーン! パーン! パーン! パーン! パーン! パーン!

 ああ、マスクが入った段ボールに大量のロケット花火が直撃した。
 マスクが散り散りになって、宙を舞って綺麗。
 綿雪みたい。
 ホワイトクリスマスクだなぁ。
 あーあ。
 マスクしている場合じゃないな。
 マスクを外して、深呼吸を……
 くせえ!

1 2 3 4