小説

『天国か地獄か、どっちもいやだ』平大典(『閻羅』)

 米国アラバマ州の元郵便局員。家族は妻と息子がいるが、息子は奥さんとニューヨーク州に住んでいる。勤務態度は勤勉。浮気などをした形跡はなし。葬儀の参列者も多かったみたいだ。
 ううむ。
 経歴を見る限り、悪行をしている様子はない。
「おじいさん」僕はパーカーさんへ話しかける。「あの、なんで死んだんですか?」
「へぇ」パーカーさんは力なく呟く。「なんでしょう、多分、心臓発作です。持病でしたし」
「あ、そりゃ気の毒に」
「へぇ」
 なんとも歯ごたえのないやり取りだ。
「……生きていた時にやってきた中で、まあ所業っつーかで、一番悪いことってどんな感じっすか?」
「ええっと」パーカーさんは俯いてしまう。「……あの、嫁に送られてきた手紙をこっそり読んでしまいました」
「へ?」
「郵便局でうっかり見つけてしまい……。相手が男だったもんですから、つい……」
「パーカーさん、マジで言ってる? で、中身はどうだったの?」
「同級生からの誘いの手紙でした」
「え、デートの?」
「いえ、同窓会のです。久しぶりだから、顔を出してくださいって……。あんまり出席してくれない人へ手書きの手紙を出しているだけでした……。私は後ろめたくなって、妻を同窓会へ出席させました……」
「ほかにないの? 人殺して埋めちゃったとか……」
「そんな恐ろしいことしませんよ」パーカーさんは僕を見つめた。「まあ、私の人生はそれぐらいの平凡なものですよ」
「ふぅん」
 ま、いっか。
 僕は木槌で机をたたき、そして告げる。
「天国!」
 すると、アランの魂は光に包まれ、天上へ消えていく。
 人の生き方を判断するなんてのは、胃がキリキリしてくるが、木槌を叩くと、肩の荷が下りた気がする。
 なんだこんなものかよ。
 まあ、暇つぶしにはいいかも。

「……地獄!」
 四百人を超えたところで、僕はあくびをした。
「おい」僕は傍らに立つ老人へ声を投げる。
「なんでしょう?」

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