小説

『ブレーメンで告白しましょ』洗い熊Q(『ブレーメンの音楽隊』)

 次は猫。
 明美は竹製のホイッスルを鳴らす。これは通販で買った擬音笛だ。
 ニャ~ゴ、ニャ~~ゴ。
 はい次を準備、準備。

「農家の庭に来ると一羽の鶏が声の限りに鳴いています。それはそれはどこまでもしみ通る鳴き声です」

 はいはい、鶏ね。
 今度は摩擦太鼓を手に取る。紐をリズム良く引けば鶏声そっくりの外国の楽器。
 コッコッコッ、コケコッコ~~ッ。 よし、上手に出来た。

 額に浮かんだ汗を拭いながら溜息の明美。一人で鳴らすのは想像以上に大変だ。
 この動物の楽器達は主役なのだから使用頻度が高い。直ぐ取れるようにしておかないと。調子に乗ってる拓郎が何を要求してくるか分からない。

「こうして四匹はブレーメンに向かって進んでいたのですが、夕方に森に着いたので今日はここで泊まろうとなりました。猫と鶏は木の上で寝ようとしたのですが……一番安全なてっぺんの枝を巡って口喧嘩。ここは私の席なのよ! いや僕の場所なんだと……」

 えっ! 合わせ技!?
 二人の時でも、途中でそんな要求いままでなかった。慌てて明美は座って笛と太鼓を取る。
 笛は口でくわえながら右手で強弱。太鼓は太股に挟んで左手で紐を引っ張る。

 ニャ~ゴ、ニャ~ゴ! コッコッコケッ~ココッ!

 な、なんとか出来た。
 お尻でバランスとりながら、まるで一種ヨガのポーズような姿勢で鳴らした明美。これを繰り返したら痩せるなと思うほどキツい体勢だった。
 ヤバい。拓郎、ホント調子に乗ってる。私が一人だって忘れてない?
 出来た事にホッとしても、直ぐに込み上がるのは拓郎への恨みだ。

「鶏が木の天辺から四方見廻すと近くに家があるのが見えました。よし食べ物があったら良いかと四匹は向かいます。着いたのはちょっとオンボロ小屋。誰も居ないと思い、ロバが鼻で建てつけの悪い扉を開きます」

 これは台本通り。
 明美は直ぐウッドチェロを取ると、弦を指で撫でるように鳴らした。
 ギ、ギッギ~~ギ。

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