小説

『ブレーメンで告白しましょ』洗い熊Q(『ブレーメンの音楽隊』)

「このロバはもうダメだ。麦の袋を一つと運び出せない。もう餌をやるのを止めてしまおう」

 ナレーション担当、拓郎の饒舌な語り。こんな子供向けの影絵芝居とて手抜きなんてしない。
 ボランティアでも演劇の素晴らしさを伝えようと誠心誠意の演技。それに合わせて効果音担当の明美がゴム製風船を握りつぶす。

 ぶひぃ~、ぶひぶひぃ~。

 よくこんな道具を見つけてくる。鳴らしながら明美はそう思う。
 各個人が演劇に携わりながらも、無償でも子供向けの寸劇をやろうと言い始めたのは拓郎。それに賛同し何人も集まったが、大抵は裏方の仕事などした事ない人ばかり。
 試行錯誤、手作り感満載の劇団になったが受けは良かった。特にこの影絵の劇は子供には喜ばれる。
 その道の影絵のプロに指導してもらった結果。その人との御縁も、この劇団を指揮する拓郎の人脈のお陰だ。

「そうだ、ブレーメンに行こう。そして音楽隊を作るんだ。きっと立派な音楽家になれるぞとロバは鳴くのです」

 はいはい。またロバね。
 ぶひぃ~、ぶひぶひぃ~。

 情熱は素晴らしいが鬱陶しいのも拓郎にはある。拘りだ。
 どんな寸劇でも手を抜かないし、妙な所で拘る。その一つが効果音。どれも手作りなのだから音も手作りで。
 色んな音が鳴る道具を集めては生で鳴らす。今はデジタル機器があるのだからそれでいいだろうと思うが反対を言う者はいなかった。
 だが今日ばかりは明美は反対だった。

「どんな音楽隊を作ろう。どんな音楽を奏でよう。そう思うとロバはワクワクして太陽に向かって思わずまた鳴いてしまうのです~」

 そら来た。またロバだ。
 ぶひぃ~、ぶひぶひぃ~。

 お陰で効果音担当は二人。いつも必死こいて二人で音を鳴らす。

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