小説

『まちがった林檎と水曜日くん』もりまりこ(『白雪姫』)

 あたかも鏡のなかにほんとうは、雪夫がいるんじゃないかと夢想しながら呟いた。
「鏡よ、鏡、この世でいちばん美しいのは」
 その先を自分でもわからないぐらいに、口の中でごまかすように滑舌めちゃくちゃに言ってみた。
 信じられないけれど、白井は返事を本気で待っていた。
 夜のどこからも返事はなかったけれど。

 そして店先のカレンダーに今日の日が終わったことを記す、スラッシュを入れた時、白井ははっとした。
 あの林檎が届いた日って、雪夫の命日じゃんか。
 あれから、5年経っていた。白井は日々の雑用に紛れて、あろうことかその日を忘れていた。

 そして鏡が届いて、7人のバイト君たちがやってきて。
 白雪姫のエピソードほんとうはすごく好きだったんじゃないかと、白井は鏡の前で、林檎をかじって見せた。雪夫の唇に触れたことはなかったけれど、雪夫が齧った林檎を白井が齧ったあの日のことを思い出しながら、林檎をかじった。いっそこれが毒林檎でもかまわないよと、胸のうちで呟きながら。 

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