小説

『毒に蝕まれたオウジサマ』永野桜(『白雪姫』)

「王子様にかけられた呪いが解けない限り、白雪姫はハッピーエンドを迎えられないよ」
「ならその呪い、白雪姫が解いてみせるから」
「王子様自身は呪いが解けることを望んでいないのに? 我儘なお姫様だね。大人しくまたバッドエンドを迎えたほうが楽だと——」
 その言葉は彼に飲み込まれた。視界いっぱいに広がる白井の綺麗な顔。唇に触れる、何処か懐かしい温もり。
 初めてのキスは童話のような甘いものではなく、しょっぱい味がした。
 白井は顔を離すと、にへらと笑う。
「……それでも僕は、皇寺さんが好きです。皇子さんとハッピーエンドを迎えたい」
「……相変わらず馬鹿だね」
 そんなだから、毒林檎を食べて死にかけるんだよ。

——何処か遠くで、本のページが捲られるような音がした。
 あぁ、ようやく、止まっていた物語が動き出す。

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