小説

『トゲトトゲ』平大典(『一寸法師』『いばら姫』)

「今から会える?」と連絡したら、早退して家に来た。
 わたしは、タケルの財布を探る。
 目的のものは、お札の間に挟まっていた。
 平べったい四角い黄色。
 中にはコンドームが入っている。
 針を手にとった。
 たわみがある一番細い和針。
 針先はとんがっていて痛そうだ。
 咲の指先からあふれた赤い血を思い出す。人を傷つけるのには、これっぽちで十分なのだ。
 これが、タケルへの復讐だ。
 アイツはつけるとき、手元を見ない。毎回ナマでやる馬鹿はいない。
 私はそれを袋に差し込んだ。
 見た目には変わらない。
 中には、ゴムだかラテックスで出来た袋と細い針。
 きっとタケルにはわからない。
 気づいた時、コイツは苦しんで悶えるだろう。
 復讐するわたしなんてのは、きっと惨めだ。
 咲も悲しむだろう。咲には言っちゃいけないんだろうな。

 ごめんね。

 わたしは涙を流していた。
 でも、口元は微笑んでいた。

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