小説

『誰』斉藤高谷(『白雪姫』)

 しもべたちがまた、例の顔をして互いを見交わした。
「答えろ!」
 七人の男たちは弾かれたように身を竦めた。
「お前ら、あたしに喧嘩売ってんな?」
 しもべたちは身を寄せ合い、縮み上がっていた。いかにも被害者然としたそうした素振りがあたしの怒りに油を注ぎ、怒りの炎を一層高く燃え上がらせた。
「正直に言わなかったら全員〈お仕置き〉よ。正直に申し出た奴は助けてやる。残りは全員覚悟しなさい」
「あの、姫」橙が小さく手を挙げる。
「何だ」
「正直か嘘をついているか、どうやって見極めるのでしょうか。姫は誰がキスしたか知らないわけですし」
「勘」
「かん?」
「あたしの勘。直感」
「ご無体な!」緑が叫ぶ。「それではあまりに理不尽です!」
「理不尽、理不尽」と七人が騒ぎ出す。
 あたしは全員の頬を張った。
「次はビンタじゃ済まさない」
 七人は腫れた頬を押さえながら、何やら目配せし合った。
 すると一人、手を挙げる者がいた。赤だ。
「実は、姫は御存知ないかもしれませんが、我ら七人、こまめに服を取り替えておりまして」
「何で?」
「気分転換でございます」と紫。「いつでも新鮮な気持ちを保ち、姫に尽くすため、そのような交換をしておるのです」
 納得はしなかったけど、それ以上の理由はどうでもよかった。
「で、何が言いたいの?」
「はい、つまり、先ほどキスした者と、今着ている色の者は別人ということでして」
「別人? 服が替わっただけでしょうが」
「しかし、姫様は我々を色で識別されているはずです」
 言われると、確かに反論はできなかった。こいつらは七人が七人とも同じ顔をしている。少なくとも、あたしにはそう見えた。
「で、キスしたのは何色なの?」
「ずばり黄色です」藍色が言った。
「黄色を着ていたのは誰?」
「私です」と、青が手を挙げた。
「違います」と、赤が言った。「彼は橙でした。黄色は私です」
「何を言います」と、緑。「橙は私で、かつ彼は黄色ではありません」
「ちょっとよろしいですか」と、紫。「確かに彼は橙でしょうが、そちらの彼が黄色ではなく、私が黄色でした」
「待ってください」と、橙。「橙は彼でしたが、黄色はその彼じゃありません。私が黄色です」

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