小説

『成鬼の儀式』西木勇貫(『桃太郎』)

 金鬼は一番能力が高いのである。その他、上から順に黒、紫、緑、黄色、青と続き、一番下が赤鬼だ。「量産型の赤」と聞けば悲しい響きだが、鬼の世界を支えているのもまた、赤である。地獄や鬼ヶ島、たまには人間世界に繰り出し、現場で活動する。赤がいないと鬼の世界は成り立たないのだ。雑用をこなし、戦闘では真っ先に特攻し、真っ先に死ぬ。それが赤の役目だった。一般的に力は弱く、知能も低い。これから鬼吉の能力が飛躍的に伸びることもないだろう。
 色は全て、良業や悪業と、何の因果もなく決まる。もちろん行動だけでなく、メンタルとも関係がない。人間世界の宝くじのスクラッチのように、答えは初めから決まっているの だ。色別はスクラッチをコインで削る作業に他ならない。まあ、相手が鬼なので、運や確率と言うより、突然変異、超自然といった言葉で形容するほうが正しい。鬼吉は赤になった理由を求め続けたが、理由などなかったのである。

 二月に入り、鬼吉は学校へ行った。自己嫌悪や嫉妬の全てがなくなったわけではないけど、時間とともに薄れていった。禍々しい校門をくぐると、仲の良かった同級生や先生が励ましにやってきた。
「落ち込むなよ、俺も赤だよ」
「赤でも幸せだって、父ちゃん言ってたよ」
「私は青だけど、あなたの方が青にふさわしいわ」
 誰も悪気はないのだが、「赤」という言葉が鬼吉の脳内に突き刺さった。学校を休んでまで逃げ出したかった現実を、わざわざ突きつけられた。あまりにも逆効果だった。鬼吉は彼らを邪魔くさいと感じ、愛想笑いで返した。

「みんな金棒を置いて、席について」
 教室に入ると黒鬼の声が響いた。自分のいない間に、何となく彼がクラスの中心になっているような雰囲気だった。鬼吉が今まで築き上げてきたクラス内での地位は、消滅していた。色がつくことによって、わかりやすくヒエラルキーが変わっていて、物悲しかった。しかし全てを受け入れるしかない。鬼吉は苦虫を噛み潰したような顔で、席に座った。

「今日は、節分演習です」
 担任鬼が告げた。鬼吉はすっかり忘れていた。こんな日に出席してしまうなんて。毎年二月に入ると、卒業間近の鬼たちは初めて人間界へと繰り出すのだ。
 鬼たちは一斉に立ち上がり、金棒をもった。気持ちが高ぶって飛び跳ねている者や、金棒を振り回している者もいた。ここで実力を示すとまたクラスの中心になれるかもしれない。鬼吉はそんな思いでゆっくりと立ち上がり、金棒を強く握りしめた。

 担任に連れられ、地上への扉の前へ到着した。

1 2 3 4 5