小説

『負け惜しみはもう言わない』渡辺鷹志(『きつねとぶどう』)

 実はおばあさんは、小さい頃にどこからか聞こえてきた男性の声に勇気づけられて、空き地で遊んでいる子どもたちに声をかけて仲間に入れてもらった、あの女の子だった。
「あなたがあのとき声をかけてくれたおかげで、私はみんなと友だちになれました。その後も多くの家族、友人に恵まれて幸せな人生を送ることができました。あそこでみんなに声をかけずに負け惜しみを言って立ち去っていたら、私はずっと一人ぼっちだったかもしれません。あなたのおかげです。本当にありがとう」
 おばあさんはそのまま息を引き取った。とても幸せそうな顔をしていた。

「こちらこそありがとうございます」
 どこからか男性の声が聞こえる。その声を聞いている者は誰もいない。
「負け惜しみばかり言って人生が終わってしまった私が、人の役に立つことができて感謝されるなんて……私にこんなチャンスをくれた神様、本当にありがとうございました」

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