小説

『レイン・ゲート』もりまりこ(『羅生門』)

 屋根を突き破りそうな轟音が聞こえてきて、篠原は雨宿りすることにした。雨宿りをどこかの店先でしようかと思いながら。した後なにか、すべての煩わしいものから解放されているというわけでもないから、別に雨宿りなんてどうでもいいのだが。
 ふとみると、ゲーセンの入り口の前に円柱の箱の中に入ったビニル傘を店長風の男の人が、店の奥から引っ込めているのが見えた。もう、帰り支度をするらしい。じぶんと同じぐらいの年の彼がちゃんと働いている姿を見て、倦んだ気持ちが襲ってくる。その店からビル2棟ぐらい先の場所で摘果と待ち合わせをしていたので、篠原は、走るか否かの判断を強いられた。すごく会いたいわけでもないのではないのかという疑問符が、こころのあちこちにへばりついているのに気づいた。
 たぶん雨の音を聞きながら、待っていてくれているのかもしれない。
 いやそれとも。雨の日は、なんとなくヤバいのって言ってたからそのことも気にかかる。今日は彼女が、誰からもなにも盗んでいませんようにと、軽く祈りながら、篠原はそこにいた。
 1人の女の人が、雨宿りの列からぬきでて、斜めに走り出した。鞄を頭の上に乗っけて行くときは行くっていう風情で、颯爽としてかっこよかった。その女の人を皮切りに、どんどん見知らぬがどこかへと帰って行った。  
 雨が店の庇を、突き抜ける音はほんとうに激しいエネルギーそのもので、雨ってやっぱり濡れて冷たいとかの前に、<音>なんだなってどうでもよいことを篠原は思っていた。
 気が付くと、ほんとうに気が付くと雨宿りしているのは、篠原ともうひとりの男だけになっていた。雨が降ると蜘蛛の子散らすみたいにいなくなった。
 雨の中に飛び出してゆく勇気の無さと、彼女に会うことにひどく躊躇いながら立ち尽くしていた。だいたいこういう優柔不断な感じで生きてしまったことが、今のじぶんの立ち位置を形作ってしまったんじゃないかと、リプレイばっかりしてたら、隣から声が聞こえた。
「雨、やまないらしいです。ここらあたりは」
 そう言いながら、男はスマホの画面を見せてくれた。人のスマホを見るのは、何処か居心地悪いので見ているふりをしてなにげなく見たら、<レインゲート地帯では、雨やまず>っていう見出し視界にちらついた。初めて聞く。気象用語なのかなにか知らないが、見慣れない言葉だった。
「ここ、レインゲートの延長ですから。すっぽりはまっちゃいましたね」
 なんのことかわからない。さっきどこかくぐりませんでしたか? って畳みかけるように言われて、記憶を辿る。くぐる?
 くぐったよ。だって雨降っていなかったし。すっごく雨降ってきたら、雨宿りを理由にもしかしたら彼女と会わなくてもいいかもしれないという、病んだ思いが過ったその刹那、渡りに船って感じでそれがあったんだもの。
「くぐりましたね」
「ほら、はまっちゃったんだ」
「え?」

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