小説

『スクールライフ・イズ・ノットグッド』ノリ・ケンゾウ(『道化の華』太宰治)

「オサム~! 飛田くんと小菅くんが遊びに来てくれたわよ」
 母親に声をかけられ、気怠そうに体を起こしたオサムが呟く。
「なんだよ、別に来なくたっていいのに」
オサムが学校を休み出してから、もう二週間が経っていた。
 ドアがノックされ、「オサムー、入るぞ」と飛田の声。しかしオサムは答えない。
「あれ、寝てんのかな」
「起きてんだろ、寝たふりだよ」
 小声で話す二人の声が、オサムには聞こえていた。
「入るぞー」と今度は小菅の声。
「ダメだ、反応ない」
「いいよもう、入ろう」
 ゆっくりと開かれたドアに、目を向けるとそこには飛田の顔が覗いていた。その後ろには、小菅がひょっこり顔を出しているのが見える。
「こら、勝手にあけんなよ」
「なんだよ、やっぱ起きてんじゃん」
 小菅が言い、飛田と顔を合わせてにやにや笑った。それを見てオサムも、つられて少しだけ笑ってしまう。三人はいつもこうしてくだらないことで笑う。何が面白いのか、傍目には分からない。三人は同い年で、中学三年生だった。卒業まであと半年という頃合い。
 世間的に見れば、オサムはあと少しで不登校生徒と言ってしまえる状態にあった。とくに大きな怪我をしたのでも疾患にかかったわけでもなく、ただ体調不良という理由で学校を長く休んでいた。母が理由を訊ねれば、体がだるくて動かないんだ、と言ってごまかし、年の離れた大学生の兄に心配されて問われると、学校に行ったって何にも学べないよ、俺は小説家になりたいんだ、などと出鱈目を言って、呆れられた。今日みたいに飛田と小菅が来た時にも、
「ねえ、なんで学校に来ないのよ、俺らつまんないよ」と飛田に言われ、
「俺は漫画家になるからね、学校行っても意味ないんだ」と言いながら筆を持つ仕草をして片目をつぶる。気障な仕草に見えるが、彼らの中では冗談だと共通認識があるみたいで、飛田も小菅もそれを見てけらけらと笑っている。
「へえ、そりゃあ楽しみだ。早く読ませろよ」と小菅が言う。オサムは何もない机の上で、筆も何も持たないまま手を動かして、「ほら、書いた。目には見えない漫画」と大真面目に言い、それを見てまた二人が笑う。一体何が面白いのか、オサムがふざけているというだけで面白くてたまらないようだ。
 しかしこのように三人でいると、どうしてもふざけてしまうように体ができてしまっているので、彼ら二人が本当は知りたがっている、休みがちになってしまったオサムの心情を図ることができない。まあでも見た感じは、平気そうに見えるのだが、平気でないからこうなっているんだろうとは二人も思っていた。それを飛田か小菅が考えてしまうと、考えているという空気がもう片方に伝わり、それがオサムにも伝わる。すると、なんとなく三人は黙ったような感じになる。オサムは気まずくなり、あくまでなんてことはないんだという雰囲気を作って、自分から口を開く。

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