小説

『幸せな泡』中村久助(『人魚姫』)

 いつか姉の涙を全部洗い流したい。

 そして私はぷくぷくと、私が泡になった場所に戻った。
 姉の一人が、私のために、涙を浮かべながら祈りを捧げていた。
 私はここにいるよ、とぶくぶくしてみたけれど、姉にはうまく伝わらなかった。精一杯ぶくぶくするけれど、やはり私の言葉は伝わらない。
 本当は伝えたいことがたくさんあるのだ。私はもうぶくぶくすることしかできないけれど。
 私は姉たちに幸せになってほしい。
 私は姉たちのことをいつだって見守っている。
 私を思ってお祈りをする姉のために、私もぶくぶくと祈った。

 私は本当に幸せだった。
 姉たちが、美しい髪と引き換えに魔女からナイフをもらってきて、王子を刺して私は生きろと言ってくれた時、私はみんなから本当に愛されていると思った。
 愛されることの幸福を、私はちゃんと知っている。
 私も姉たちのことを愛している。
 私は今も寂しくなんてない。
 姉たちが私を大切にし続けてくれているから。
 私は今だって、とても幸せな泡だ。
 だから、姉たちには、もう泣かないでほしい。

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