小説

『不動産王』渡辺鷹志(『わらしべ長者』)

 それが不動にできるすべてだった。
 そして、不動が手に入れた土地はそのどれもが例外なく急上昇した。それに合わせて周辺の土地の価格も上昇する……ということが国中で起こった。
 そして、国中の土地の価格が上昇すると、それに伴い経済も急激に活性化した。人々はこの異常な好景気に熱狂した。
 その立役者はもちろん、「不動産王」の不動だった。

 しかし、不動が巻き起こした異常な不動産バブルもついに終わりを迎えるときがやって来た。
 その年、過去に例がないほどの世界恐慌が起こった。世界の国々で株価が大暴落し、世界経済は大減速した。
 土地の価格も例外ではなかった。不動が引き起こしたバブルにより急上昇した土地の価格は、その反動もありあっという間に急落した。
 それは不動産王と呼ばれた不動の土地も例外ではなかった。神がかり的に上昇を続けた不動の土地も今度ばかりは下落の一途を辿った。
 そして、いつしか世間の人々は不動のことなどすっかり忘れてしまった。

 しかし、それは不動にとっては喜ばしいことだった。バブルの崩壊により不動の手元に残ったのは田舎のちっぽけな土地と家だけだったが、不動はようやく、ずっと待ち望んでいた静かな暮らしを手に入れることができたのだ。

 現在不動は、土地の交換を始める前までのように、田舎で畑を耕しながらのんびりと暮らしていた。
 そんなとき、ふと不動産王と呼ばれた頃のあの異常な日々を思い出した。
「あれはいったい何だったのだろうか……」

1 2 3 4 5