小説

『不動産王』渡辺鷹志(『わらしべ長者』)

 この状況にもう耐えられないと思った不動は、ある日、やって来た不動産業者の人に土地を売ることにした。その不動産業者も「土地を交換してほしい」とのことだったので、一刻も早く今の状況から逃げ出したかった不動は、山奥にある土地を選んで交換してしまった。
 不動は「ほとんど人もいないような山奥なら、もう商業施設を作る話なんて絶対出ないだろう。今度こそゆっくりできる」と考えたのだった。
 そして、不動は交換して手に入れた山奥の土地でようやく静かな生活を送ることができるようになった。

 しかし、不動がそこで静かに暮らすことができたのはわずか数カ月程度だった。
 今度はなんと、不動が暮らしている山奥から、国内最大級、いや世界でも有数の貯蔵量があるかもしれないという石油の鉱脈が発見されたというニュースが流れた。
 そのニュースはまたたく間に世界中に広がり、不動の持つ土地の価格は数十倍、いや百倍以上に高騰した。
それと同時に、「不動産の価格の上昇を予知する男」として不動産業者の間に知られていた不動の名前は、ついに一般の人にも知られることになった。
 マスコミがこれまで不動が交換してきた土地とその価格の上昇について連日取り上げた。テレビのワイドショーでも特番が組まれ、週刊誌などの各雑誌は不動の特集で埋め尽くされた。不動は一躍時の人となった。
 そして、「不動産の価格の上昇を予知する男」と呼ばれていた不動は、ついに「不動産王」と呼ばれるようになった。

 不動のもとには、毎日様々な人が訪れた。
「石油の鉱脈が発見された土地と別の土地を交換してほしい」
という不動産業者が世界中からやって来た。
「どうして不動産の価格の上昇を予知できるのか?」
「次はどの辺の土地が上がるのか?」
「もともと何の職業をしていたのか?」
 興味本位のマスコミの取材も後を絶たなかった。
 不動はなぜこうなってしまったのか、自分でもわけがわからなかった。
 不動は「とにかく人々に追いかけ回されるこの状況から早く逃げたい」とだけ考えていた。
「早く土地を売りたい、いや、何なら寄付してしまってもいい」
とまで考えていた。そして、もう土地のこととは関わりたくない、それが不動の本音だった。
 しかし、世論がそれを許さなかった。
世間の関心は「不動がその土地を売る」ことではなくて、「不動産王が今の土地と引き換えにどこの土地を手に入れるのか」ということにしかなかった。

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