小説

『不動産王』渡辺鷹志(『わらしべ長者』)

 不動は山奥でひっそりと暮らす真面目な青年。自分の家の畑を耕したり、山の手入れをしながら質素な生活を送っていた。平凡な毎日ではあったが、不動は今の生活に特に不満はなかった。
 ある日、不動のもとに知り合いの男がやって来た。
「不動さん、あなたの所有する山と私の所有する山を交換してくれないでしょうか」
 男は不動に頼んだ。
 しかし、その男の所有する山は、不動が所有する山より面積も小さく、しかも不動の山のようにきちんと手入れがされた山ではなかった。どう見ても不動の山のほうが価値があった。
 しかし、人のいい不動は男に泣きつかれてお願いされると断ることができず、自分の所有する山と男の所有する山を交換してしまった。

 その後しばらくすると、なんと不動が交換して手に入れた山から大量のマツタケが発見された。その前に山を所有していた男は、面倒くさがって山の管理を全くしていなかったのでマツタケの存在に気づいていなかったのだ。
 マツタケが発見されたことが知れ渡ると、その山の価格が一気に跳ね上がった。不動のもとには「ぜひ山を売ってほしい」という人が次々にやって来た。

 その中に、自分は有名な会社の社長だと名乗る人物がいた。
「ぜひ、私の別荘地とあなたの山を交換していただけないでしょうか」
 その人物はこう不動に持ちかけてきた。
「その別荘地はとても広くて立派なものです。私も本当は手放したくはないのですが、これからは会社の社長を辞めて、田舎で山仕事をしながらのんびり暮らしたいと思っていたんです。それで私の別荘地はあなたのような立派な山をお持ちの方に譲りたいんです」
 その自称社長の持っている別荘地は確かに広く、別荘も大きかったが、今は誰も住んでおらず管理もされていなくて、とても人が住めるような状態ではなかった。さらに、そこまで行く道路も十分に整備されていなかった。要はその社長が言うほど立派な別荘地などではなかったのだ。マツタケが取れる不動の山のほうがはるかに価値は高かった。
 しかし、気の弱い不動は、社長の押しに負けてマツタケの取れる山と社長の別荘地を交換してしまった。

 それから数カ月後、不動が交換して手に入れた別荘地を含む周辺の土地に大規模な道路の建設計画があることが発表された。すると、その地域の土地の価格がまたたく間に何倍にも跳ね上がった。
 不動のもとには別荘地を売ってほしいという人が次々と現れた。

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