小説

『オタクの恋』(『かえるの王様』)

 声が出そうになるのを必死で堪えて、机の上にある物を掴む。
 なななんと、『ラブ☆バンド』のカプセルではないか!
 しかも、紫色の、ランのカプセル!
 僕の目は見開き、頭の中は花火がドーンとなったり、カーニバルのお姉さんたちが練り歩いたり、ヒヨコが生まれたり、Bボーイがハイタッチを求めてきたり・・・・・・とにかくお祭り騒ぎだ。
 落ち着け、自分。
 カプセルを、机と僕のお腹の間に隠しながらそっと開く。
 満面の笑みを浮かべたラン(フィギュア)と目が合った。
 黒谷さんが、僕に?
 姿勢をずらして彼女を見ようとするが、辛うじて見えるのは右腕だけだ。

 さっきの、山下くんとの会話が聞こえて、僕にこれを?
――こんな事って。
 こんな、ドラマみたいな事って・・・・・・
これは、大吉どころじゃない。
 僕のジンクスから考えると・・・・・・
 きっと、この先は、バラ色の人生だ!
 *
 それからというもの、僕の人生は、本当にバラ色に染まっていくようだった。
めまぐるしく成績が上がり、なんとか志望していた大学に合格した。
――そして、
「はじめくんっ」
 なんと、今、僕は彼女と同じキャンパスを歩いている。
「今日、お弁当作ってきちゃった!」
「ほ、本当に? 嬉しいよ、ゆきちゃん!」
 黒谷ゆきさんと僕は、同じ大学に進学した。
 そして、なんと、僕たちは恋人同士になった。

 僕が決めたジンクスは正しかったのかもしれない。
 最後のカプセルを手にしたあの日から、
 僕はまるで、目に見えない何かから解き放たれたようだった。
 **
 私は、黒谷ゆき。
 隣にいる、ハジメくんの彼女です。
 彼はオタクだし、見た目も、スポーツも、勉強もイマイチだけど愛しています。
 正直に言うと、半年ほど前までは嫌いでした。
 半年前、ハジメくんが高級車からエスコートされて出てくる所を目撃するまでは。

 私は、ハジメくんのことを調べ上げて、彼が御曹司だという事を知った。
 興味もないアニメを見て、お小遣いをガチャガチャに費やしたし、志望校も変えた。オタクはツンデレに弱いっていう情報も、疑いながら実践したけど、どうやら正解だったようね。

 ハジメくん、私は、貴方を絶対に離さない。

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