小説

『二十二時、八王子駅にて神を待つ』山本マサ(『マッチ売りの少女』)

 嗚呼、キャンメイク様、マジョリカマジョルカ様、スノー様、どうか惨めでブスでどうしようもない私を神へとお導きください、アーメン。
 十二月二十五日、二十二時。クリスマス。お店の明かりもビルの明かりも、一向に消える気配もなく、クリスマスソングがそこかしこの店から聞こえてくる。あたしの目の前を歩いていくカップルや化粧の崩れた女子大学生グループの足取りは軽いのに、あたしの身体は疲れ切って酷く重く、かったるい。その重みのワケの大半は、あたしに与えられたあと一時間のタイムリミットのせいだった。
JR八王子駅北口。マルベリーブリッジの手すりに寄り掛かって、あたしはスマートフォンの電源をつける。ぱっと明るくなる画面。バッテリーは残り三十パーセントしかない。時間もバッテリーもお金もない。流石に焦る。
 クリスマスという一大イベントのせいか、それとも大量の神待ちツイートに埋もれてしまうのか、今日は一向に当たりの匂いがする神様が現れない。
 おそらくこれが最後の神待ちになるだろう。もう神様を選択している時間も余裕もなかった。急いでTwitterのアプリを開き、詐欺アイコンでツイート。
『誰でもいいので泊めてください。DM待ってます。高二。#家出少女 #神待ち』
 ツイート完了。ホーム画面で文末につけた家出少女と神待ちがハッシュタグになっているかを確認。ツイートしたハッシュタグをタップして検索一覧に自分のツイートが表示されたのを更に確認してから、スマートフォンを両手で握りしめ、祈るように待つ。バッテリーが勿体ないから、通知は切ってある。神がおわすまでの我慢だ。
 クリスマスカラーの八王子駅の明かりに照らされた、真っ黒のスマートフォンの画面に映ったあたしの顔と、Twitterのアイコンは肌の色と輪郭と瞳にだいぶ差があるが、今日を生き残るには、これくらいの詐欺をしなければ、JKは神に愛されづらくなってきているから仕方がない。コスメポーチを持ち歩き、最低限の化粧をしている分、神待ち少女としては上玉だと思う。詐欺アイコンと本来の顔面とのギャップに踵を返して逃げる神様に声をかけられませんように、と祈る。
「あの、あのぉ、神待ちですか?」
 同じ属性の人間は、やっぱりフンイキで分かるのだろうか。膝上まで隠れる長いダッフルコートを着た女の子が、マルベリーブリッジで一人、突っ立っているあたしに声をかけてきた。彼女はちらっとコートの間から、中を見せる。
 中学校の制服。
 肩まである黒髪は跳ね散らかっているし、眉毛は太く、産毛も気にしていない。アイプチもなにもしていない、ドスッピンの芋子ちゃんだったけれど、彼女はJCブランドを武器にしている神待ち少女。寧ろそういう芋子ちゃんの方が、自分好みに女の子を作れるから手間暇を惜しまない時間のある神様には好かれる。きっとこの後、彼女は神様とマツモトキヨシでカミソリとプチプラコスメ購入デートだ。
 きっと彼女も偉大なるスノー様で加工しまくってアイコンにしているんだろうな、とあたしは思いながら、こっくりと頷いた。
「出会えましたか?」

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