小説

『心礼動画』洗い熊Q(『東海道四谷怪談』)

 別部屋に通される。どう見ても病室とは思えない所だった。
 覗き見ればベットに寝る沢子を中心に取り囲んでいる人達。
 初めて見る沢子の両親。顔見知った彼女の劇団仲間。皆が啜り泣いている。
 そして寝ている沢子の顔は白かった。血の巡りが無くなると本来の人肌とはこんなに皚皚なのかと。

 僕はふらふらと部屋を後に、廊下にあった長椅子に座り込んでいた。
 何か考えなければと不図、虚無になり溢れるは何かと思う自分がそこにいた。
 彼女の居ないこれから先々の不安と絶望なのか。贈れ仕舞いの言葉からの過去への後悔なのか。

 最初に現れたのは懺悔だ。
 何もしてない自分への怒りと憎しみだけだ。
 一体自分は今間で何をしてきたんだと。羞悪の中で見えた彼女は微笑んでいた。そうだ、あの戯れ言を言い放った時の顔だ。
 今更に笑みの意味を理解した。主役にという賛辞にではない。僕が映画を撮るという事実に欣喜したのではないかと。
 その瞬間だ。僕の中の彼女が言った。

 ――本当にゴメン、直樹。

「う、うわっーーーー!!」
 人目を憚らず吼えた。抑えきれない感情は哭する事を勧めていた。
 お前が謝らないでくれ。夢に真っ向から挑まなかった自分に言わないでくれ。詫びなければいけないは言わせてしまった僕なのだから。

 
 沢子が亡くなって数日は廃人同然だった。息をするのさえ面倒に思う程に。
 そしてその期間は彼女への想いの再認識でもあった。これ程までに愛していたんだ沢子を。それが蟠りの始まりだったのかもと。
 安定した収益が望める映像製作に希望を求めたのかと。二人で生活、いや彼女の夢の為にとの。

 もやは何もかも言い訳に過ぎない。
 素直になれなかった馬鹿な自分がそこにいただけだ。
 ならこれからどうすればいい。そんな事は分かり切っている筈だ。一つしか残っていない。

 そう思って僕は先輩に電話をした。
 電話で僕の声に驚いた先輩だったが、何で連絡してきたは察してくれた様だった。沢子の生前から先輩には本音に近い事を漏らしていた。
 簡素な説明にも二つ返事で応じてくれ。
 後は僕自身の決心だけだ。これが最後の心霊動画撮影だと。

 

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