小説

『心礼動画』洗い熊Q(『東海道四谷怪談』)

 答えを知りたく彼に張り付いて。

 でも彼はずっと落ち込んでいて。仕事もしないで。何もしなくて。
 撮影しないの? 死んだ私がその心配するのも可笑しいけど。
 不安になのは彼が製作そのものから逃げてしまう事。何より好きなその道から外れないで。

 塞ぎ込んでいた彼が漸くと先輩に電話して撮影の準備をと。話には聞き耳を立てなかった。
 正直、本音が聞こえるのが怖かったのかも。

 そうして先輩との待ち合わせた場所。日中の日当たりの良い公園。人は殆ど居ないけれど。
 こんな明るい所で撮影なんて。先輩がカメラを準備すると、その前に直樹が立った。
 直樹が出演? 二人きりの撮影。
 何をするのか私が分からないまま、彼が意を決した顔で頷くと撮影が始まった。

 彼はカメラに向かって語ってくれた。
 想いを。願いを。そしてこれからを。今間で知らなかった彼を全て曝け出してくれて。
 私に贈られた言葉だった。

 彼の背後で聞いて。
 胸が熱くなって。小春の様に周りが暖かくなるのを感じて。目の前の彼が涙で滲み歪んで見えるのが分かって。
 思わず手で涙を拭うと、それが指を伝って流れて行くのを肌で感じた。
 そして思った。幽霊でも涙ってあったかいんだって。

 思い残す事なんてない。
 この温もりに包まれたまま旅立とうと。
 このまま彼の守護霊としていても良かったけれど、今はもう心配事がないから良いかと。
 そう想うと私の周囲が眩い光に包まれ始めた。

 最後に皆さん。彼は素晴らしい映画監督になります。だから彼の作品を観て下さいね。
 お願いします――。

 

 
 僕は笠原直樹。今は映像作家として日々製作を行ってます。
 昔からの夢。映画監督としての成功。それを常に抱きながら製作に関わる道を選んでました。
 この時も撮っていました。心霊動画を。

「沢子、一人で下りれるか?」
「ちょっと無理かも」

 もし監督として“心に残る女優は?”と訪ねられる時が来たら、きっとこう答える。
 嶋沢子。そう、僕の目の前にいた彼女だと。

 

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