小説

『ある魔女の話』まる(『ヘンゼルとグレーテル』)

“願いを叶える”それが私の仕事だ。こう言えば聞こえはいいが実際は誇れることはあまりしていない。この世界では昔から娯楽として楽しまれてきたものがある。それは人間の願いを叶えて、その後どの様な運命を辿るか観る、というものだ。私はその人間の願いを叶える仕事をしているのだ。

ある日、一通の手紙が届いた。それは仕事のことで、二人の幼子を疎ましく思う母親の『一生帰って来ないでほしい』という願いを叶えろという内容だった。つまり、この世から消して欲しいということだ。
「酷い話だなぁ・・・」とため息混じりに呟く。願いは様々な種類がある。綺麗になりたい、お金が欲しい、〇〇に行ってみたい、などなど。はたまた、この様な負の感情から生まれる願いだってある。この様な類は何回も叶えてきたが、命を奪うまでのことはしたことがなかった。あまり気が進まない。が、やるしかない。上からの命令だから仕方ない。自分にそう言い聞かせ、仕事の準備をする事にした。

人間界に到着して着々と準備を進めていく。子供達は明日、森の奥に置いていかれる。その周辺に家をつくることにした。子供を惹くならばお菓子だろうと思いお菓子の家をたてる。
そして、家具やここまで来れるように道のりをつくる。
「後は・・・計画を立てないと。」
そう思いあの手紙を取り出す。そこには行動の指定について書かれていた。
・兄の方は家畜小屋に入れ、肥え太らせて食う
・妹の方は兄の為に料理を作らせ、兄のあとに食う
「子供達を食えということですか・・・」
よくこんな事を考えられるものだ。しかもこれを実行しろというのだから。
「仕方ない、命令だからするしかない」
そう言い聞かせ、手紙に向き合う。この指定に基づいて考えなければいけない。私はペンと紙を取り出して計画を立て始めた。

兄妹が来て数日が経った。最初は計画通りに進んでいった。しかし今は全く進展がない。兄が全然太る気配がないのだ。こうなったら手詰まり状態だ。私にとってはこのままでいて欲しいものだ。食べなくて済むから。なんてぼんやり考えてると、目の前に手紙が現れた。突然のことに少し驚く。嫌な予感がする。手紙を手に取り、送り主を見る。
「・・・職場からだ。」
恐る恐る開けて中身を見る。そこには「予定変更、兄妹を今すぐ食え」という事が書かれていた。おそらくなかなか太らないことにしびれを切らしたのだろう。命令に逆らえば、自分の身が危険だ。
「どうしよう、どうしよう・・・」
私は頭を抱える。自分は人の命を奪い、食べる事が出来ない。覚悟がない。そして何より
「そんな事したくない・・・!」
どう考えても出来ない。でも指示には従わなければいけないのだ。

1 2