小説

『あの日の情景』太田純平(『黄金風景』)

 ああ。負けた。
 私は負けたのだ。
 彼らの強さに――。
 自分の弱さに――。
 ああ――。
 だけどこれは、きっといい事だ。
 彼らの勝利はまた、私の来年からの出発に光を与える。
 私は最後にもう一度だけ目元を拭い、ようやく棚を飛び出した。
 そしてお菓子コーナーでおふくろの好きな和菓子をカゴに入れると、おやじの好きな日本酒を探しに、酒類コーナーへと足を向けた。

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