小説

『ロミオとロミオ』鷹村仁(『ロミオとジュリエット』)

「あいつ最近毎日龍人君の帰り待ってるらしいよ。」
「あざとくない?」
「本当マジそれ。」
「調子に乗ってんじゃないの。」
 ある時サッカーを見ていた数人の女子が辻堂の悪口を言っているのを耳にしたことがあった。少し離れた所に同じくサッカーを見ている辻堂の姿がある。
「・・・。」
 雑誌のグラビアで男子の注目を集めてる女が、イケメンの龍人にグイグイ手を出そうとしている。外野でキャッキャ言っている女子からしたら面白くないのは当然だ。たぶん辻堂もそんな事は分かっている。だけどこの女はそんな事はどうだっていいのだろう。自分のしたい事をしているだけなのだ。
辻堂の目は龍人だけを追っていた。

 学校の昼休み、龍人に辻堂の事について尋ねた。
「どうなの、辻堂とは?」
「どうって?」
「告白された?」
「ううん、されてない。」
 遊園地デートから一ヶ月が経っている。たぶん告白は時間の問題だろう。
「龍人はどう思ってんの?」
「・・・よく分かんない。」
「何それ?」
 “特に何も”的な発言を期待していたので、心臓の動きが速くなる。
「最初は特に意識してなかったんだけど、メールとか一緒に帰ってくうちに意識するようにはなった。」
「あっそう・・・。」
 続きの言葉を失う。今まで女性になびかなかった龍人が惹かれ始めている。
「輪島はどう思う?」
「どうって?」
「辻堂の事。」
 言葉に詰まる。サッカーをしている龍人をジッと見つめていた辻堂や、自分にぎゃんぎゃん吠えながら必死に龍人の事を聞いてくる辻堂を思い出すと、「最悪」とはどうしても言いだせなかった。
「・・・まあ、わがままそうだよな。」
 これが精一杯の答えだった。性格が最悪だろうと女子から嫌われようと辻堂の一生懸命さを否定は出来なかった。

 好きならば告白すればいい。そんな簡単な事が自分にはハードルが高い。一般的に男が「どうして女性を好きになってしまったんだ」と思う事はないし、当たり前の事すぎて、そんな事に悩まない。だけど「どうして男を好きになってしまったんだ」になると途端に違和感を感じるし、悩む。
やはり自分は普通ではないのかと思う。世間の“普通”に当てはまっていないと生きづらい。両親にも友達にも誰にも打ち明けたことがない。今まで好きになった男子に「好き」と言った事もない。だけど「好き」なものは「好き」なのだ。いくら思い悩んで苦しもうとこの事実からは逃げられない、だからいつまでもこんなジレンマに絡まっている訳にはいかないのだ。いつかは嫌われるのは承知で伝えなければいけない・・・。

 図書館で勉強していると、またしても辻堂に呼び出され、端っこの人気のない所に連れて行かれた。
「なに?」

1 2 3 4 5 6 7 8 9