小説

『パーマネント・パッパラパー』泉鈍(『飛行機から墜ちるまで』吉行エイスケ『オイディプース』)

 そうだ、おれは新幹線に乗っていた筈だ……。

 ピーガガガ……。

 いや 眠れない
 好きでこんなヤツになったわけでもない
 まったくのひとりってわけじゃないが
 わけのわからないやつらばかり
 ぶっ殺すべきやつがいないんだ
 ウケるよな
 誰かと繋がることなんて 一度でも できたか?

 ……ガガ、ピー!

 ブースの前には誰もいなかった。皆、次のバンドを早く出せと、ライブスペースにギュウギュウに詰まりながら囃し立てていた。「なんだこの曲」とDJに向けて無神経な声を飛ばすヤツさえいた。その度にDJの手が止まって、純白のヘッドホンが力なく耳からずり落ちそうになる。

「ヘタクソ」
「止めろ」
「死ね」

 たしかに、とっとと墓の下にでも潜り込んじまった方がマシだよな。地面の下で冷たくなっちまえば、もうなにも考えずにすむ。だけど、音楽は止まらない。半泣きのクセして、坊主女はどんどんレコードを取り替えていく。曲の繋ぎは途切れがちで拙いし、轟音マニアどもには不相応なものばかり……でも、かける曲はどれも悪くなかった。ルーズ・ジョインツ、シルヴェスター、ジョセリン・ブラウン……、古き良きウエストエンド、ファンタジー、サルソウル……、ディスコ、ハウス、ガラージュ! レコードラックにとり残された、唯一の繋がり。おれの父親代わりたち……。

ーーマシンガン担いだ女がいやがった。

 ぜんぶ撃ち殺してくれ。おれはにやける口元を隠そうともせず、ブースのど真ん前でステップを踏み出した。これはバンドの繋ぎで、誰もDJのかける音楽なんてまともに聴いちゃいない。ひとりでに踊りだしたおれに、皆が嘲りの声をあげるのを感じた。ひでえヤジ。死ねだのタコだのボケだの。全部聞こえてるっつーの。マイノリティってのはいつだって辛いよな。隠して合わせてやってかなきゃ、あっという間にこのザマだ。だけど、おれはちっとも気にならなかった。いや、もう気にしないことにした。
 坊主頭の女と目が合う。
 頷き。

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