小説

『きつね』森な子(『民話:妖狐』)

 ヨーコは、ああこのかんじ、身に覚えがある、と思った。山でのヨーコも同じだった。いつも誰かにひそひそとうわさ話をされている。居心地が悪くて俯いて、そうして自らひとりになることを選んだ。
「なにしにきたんだよ」
 誰かが言った。歩はぎゅっとヨーコの手を掴んだ。
「お前たち、どうしてヨーコに意地悪をするんだ」
「は?お前誰?」
「私はこの子の……」
 言いかけて、ヨーコは黙った。この子の、なんだろう。友達なのか?友達なんて今まで一人もできたことがない。だからわからない。友と言っていいものか。言いよどんだヨーコに対して、怪訝そうな幼い視線がいくつもあつまった。ええい、ままよ、と思いながらヨーコは叫んだ。
「と、友達だ」
 しん、とあたりが静まり返る。気にせずヨーコはつづけた。
「友達だから、この子に意地悪するのはもうやめてほしい。お願いだ」
「友達?そいつの?」
「ああ、そうだ」
「ふうん……」
 子供たちはひそひそと集まって会議をしだした。冷や汗をかきながら見守っていると、やがて「よし、決まり!」と声が響いた。
「意地悪するのをやめてやってもいい」
 ただし、と声が響く。
「裏の山があるだろう。知っているか?」
 知っているも何も住んでいる。そう思いながらヨーコが黙っていると、子供たちは楽しそうに声をあげた。
「今から俺たち十人全員、あの山に隠れる。夕方のチャイムが鳴るまでに全員見つけられたらお前たちの勝ちだ。歩をいじめるのをやめてやる」
「なんだそれ」
 子供のお遊びじゃないか。とヨーコが脱力すると、子供たちは「三十分経ったら見つけにこいよ!」と笑いながら走っていった。
 公園に残されたヨーコと歩は唖然とした。今が十三時だから、チャイムが鳴るまであと四時間もある。いや、待つ時間を引けば三時間半か。ヨーコは昔から山に住んでいて地形に強いし、子供が隠れそうな場所なんて大体わかる。余裕だ。この勝負勝った。
「お、大ごとになっちゃった……」
 歩がおろおろしながらそう言った。ヨーコは子供を見つけるのは簡単だろうが、山の十人たちが自分をどう見るだろうとそれだけが気がかりだった。
 三十分たって、二人は山へむかった。匂いで大体の場所がわかる。子供は一人、また一人と見つかった。
「くそ、見つかったー!」
 誰かを見つけるたびに自分の後ろを歩く人が増えていく。子供たちは最初、歩と話すのを気まずそうにしていたが、
「あっちの川のほうはどうだ?」

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