小説

『六徳三猫士・結成ノ巻』ヰ尺青十(『東の方へ行く者、蕪を娶ぎて子を生む語:今昔物語集巻廿六第二話』『桃太郎』)

「結局って言われても、まあ、その、なんだな、子種のパワーは凄いよ、喰っただけでも身籠るぞよ、ってな寸法よ」
 ごっくん。
「そうなんですか?」
「おおともよ。『今昔物語集』って与太噺に書いてあらあね」(巻廿六第二話)
 ごっくん、ごっくん。
「拙僧も、ごっくん、オーラルだけで108人は孕ませたわい、かっかっか」あー、酔った酔った、極楽極楽、南無阿弥陀仏。
 乞食坊主、言うだけ言って気持ちよさそうに眠り込み、翌朝すたこら村を去った。そして、女が次々と死に始める。
 最初は生臭の戯れ言として本気にしなかった種盛ではあったが、貧すれば鈍するみたく、一族の血を絶やさぬため、最期の望みを蕪に託すことにしたのだ。
 伝家の宝刀・猫光を以て蕪に穴を空け、用を足しては栓をする。他の男どももこれに倣って子種を詰め始めた。するうちに蕪が底をついて大根や桃などを代用したが、栗だけは痛くて使えなかったのは言を俟たない。
 どうか川下の娘が拾って食べてくれますように、なにとぞ猫丸の子孫が誕生しますように。氏神たる猫丸大明神に祈りつつ、男たちは鬼多上川にオタネサマを流し続けましたとさ。

【昔々その二】
 蕪を食って、婆は身籠った。
 当初は狼狽したものの、結局のところ、猫丸大明神の御利益との考えに落ち着く。
 そう、この爺婆、下人に身をやつしてはいたが元々は由緒正しき猫丸一族。落ちのびる途中で種盛とはぐれて後、川端で暮らし始めたのだ。跡取りの無いままに果てるのを覚悟していたところであったから、子を授かる喜びは譬えようも無い。
 不思議なことに、子を宿してからというもの、婆がどんどん若返っていく。ペースは、まあ5歳/月で、分娩時にはセヴンティーンのJKに戻っていた。
 みずみずしくなった肌に爺は淫欲の心を起こし〈うひひひ、婆さんや〉、乳房に手を伸ばしたところ往復ビンタを喰らったのは言うまでもない。赤ん坊はFカップ飲んですくすく育っていった。
 それはいいのだが再び母体に異変が起こり、産後は7歳/月で急速に老いて行く。半年も過ぎた頃には元の木阿弥、前期高齢者に戻って、しなびた靴下みたいな胸からは乳が出ない。
「爺さんや、太郎もそろそろ乳離れだねえ」
「婆さんや、垂れたソックスみたいじゃのう」
 再びパンチが飛んで、ひっくり返った爺を尻目に、婆は囲炉裏で粥を煮始めた。

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