小説

『六徳三猫士・結成ノ巻』ヰ尺青十(『東の方へ行く者、蕪を娶ぎて子を生む語:今昔物語集巻廿六第二話』『桃太郎』)

【13世紀初頭@落人集落】
 紅葉も盛りを過ぎた頃、一族の長、猫丸種盛(たねもり)が、山と積まれた蕪を相手にせっせと励んでいる。連日のこととて頬はげっそりとこけて目は虚ろ、ただただ子孫繁栄の悲愴な決意を以て苦行に耐えていた。
 鬼角氏の手を逃れて潜んできたが、今年の春以来、正体不明の流行病が蔓延して、女という女が死滅してしまったのである。これで血筋が絶えるは必定。
 あいつのせいだ。あの乞食坊主が病原菌を持ち込んだとしか考えられない。
 そう、まだ春も浅い頃だった。行き倒れ寸前の法師が迷い込み、〈わし、もうあかん、死んでまいまんがな〉なぞ喚いて筆と紙とを用意させるや、

「願わくは花の下にて春死なむ その如月の望月のころ」(西行)

 辞世の句まで詠んでいたが、いっこうに死なない。どころか、如月(2月)を過ぎる頃からヒンズースクワット始めて、櫻花満開の4月半ばにはすっかり快復してしまった。
 これがとんでもない生臭坊主で、女たちにちょっかいを出すは、大酒は喰らうはで迷惑この上も無い。だが、邪険に扱って落人集落のことを役人に密告されては困る。なので、種盛は辛抱し続けた。
 それが、明日はようやく集落を出て行こうという晩、乞食坊主ドブロクあおりつつ、お礼にひとつ有り難い話をしてくれようぞとて、説法を始めた。
「えーと、今は昔、京から東国に飛ばされた小役人がおったのじゃ」
 ぐび。
「任地までは遠くてヘトヘト。このボケナス、疲れ魔羅となって強烈な淫欲の心を起こした」
 ぐびり。
「でもフーゾクとか無いし、デリヘル呼ぼうにもスマホ持たないしね。そいで、ふと見ると畑に蕪が植わってる」
 ぐびぐび。
「むっちり白くて女の尻見たようじゃ。ヌケサク、矢も楯も堪らんで巨尻蕪を引っこ抜いての、穴開けて交わりおったわ」
 ごぶ、ごんぶり、ぷふぁー。
「んで用を済まして投げちゃって、すたこらさっさと行っちまいましたとさ」
 ずずず。
「ところがだ、地主の娘がそれを食っちまったからテーヘンよ」
 ずっ、あ、お代わり、もう一本くだされ。
「たちまちに孕んでな、ボケナスそっくりの餓鬼をひり出したとさ」けっけっけ。ぐんびり。
「あのう、すいませんけど西行さん」
 尾籠にうんざりして種盛が切り返す。
「結局のところ、何が言いたいんですか?」

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