小説

『アババババ』三角重雄(『あばばばば』)

 何と言うことだ!大失敗だ。
 分かっていながら私は図らずも、私が一番嫌いなとんでもなく安易でお人好しな屑、腐敗した欲望のままに女を抱きたい気持ちを隠匿し、母に変身してしまった女のご機嫌を取って、「いつだろう。いつ女に戻るだろう」と欲望成就を待つ、死んだ男になっていた!
 いたたまれなくなった私は、手にした商品を棚に戻し、何も買わずにコンビニを後にし、外に出た。 
 肌寒い風が吹いていた。
 見上げる空には秋の月が、丸く美しく、それでいてよそよそしくかつ優しく、そして遙か高くに輝いていた。
 月光はさやかだった。有無をいわせぬ光が降り注いでいた。
 ゆうこ…。
ゆうこはしくじると真っ赤になって詫びた。ゆうこ、いや秋月さんは明るい声で笑った。秋月さんはまん丸な目をして赤ん坊をあやした。
 私の地団駄を遙か彼方で月が見ている。
  きっと…、
 私の何かがちょっと、そうでなければ全部違うのだ。
 今夜は十三夜、後の名月という晩だったかも知れない。

1 2 3 4 5 6 7 8 9