小説

『桃燈籠』青田克海(『桃太郎』)

 権蔵は嘘とバレない為に堂々と言います。そんなわけないといわれれば、それまでの話。賭けでした。芳兵衛が極秘でこの任務に当たってるのだから警戒して当たり前です。だが芳兵衛は納得したように頷いて
「いつも一人だからな。話し相手が欲しかったんだ」
運は権蔵を味方しました。芳兵衛を始末する準備は整いました。

 道中、芳兵衛は非常に饒舌でした。
「アレを見たことはあるか」
「いいや」
「有りえないよな。でもアレがいるからここ一帯は安泰なんだぜ。食べ物や金銀財宝を渡してくれるからな。皮肉なもんだ」
「籠の中は誰の子だ?」
「さぁ誰でもいいだろ」
「興味はないのか」
「あぁ」
 明日、涙を流すのは誰なのだろうか。権蔵はずっと気になっていました。
「お前の主人の先代も先先代もアレの傀儡なんだよ」
 権蔵はできるだけ目立たない場所で、芳兵衛を襲うつもりでした。
「子を産む奴がバカでならない」
 偶然足を滑らせた。不運な事故。殺すのに適した場所はもう少しでした。
「光太郎の子だったらいいのに。俺あいつ嫌いなんだよな」
 ただ、権蔵が気付いた時には、目の前に芳兵衛が倒れていました。何故倒れているのか、それは自分の手に持つ拳ほどの石を見ればわかります。芳兵衛の軽い言葉に怒りは限界を迎えていたのです。
 予定とは狂いました。人が簡単に動かなくなるとは思いませんでした。権蔵は籠から赤子を取り出して、安全な場所に運ぶことを優先させます。芳兵衛の死体の処理はそれからです。
 下山し始めると赤子は鳴き始めました。誰かに見つかったら大変と権蔵は必死に泣き止ませます。

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ」
叫び声が聞こえます。誰でしょうか。祭りは最高潮。人々が川に集まる中、山へいるのはーー。
 芳兵衛は死んでなかったのです。そして権蔵に襲われ赤子が盗まれたことに気が付いたのです。芳兵衛の叫び声はどんどん近くなります。物凄い速さで山を下っているのです。赤子が泣き止まない状況は居場所を知らせるようなものです。山を下りると、幾つかの松明の明かりが見えました。烏の面々です。
「芳兵衛何があった!芳兵衛!」
 芳兵衛の馬鹿でかい叫び声。緊急事態の合図だったのです。一本道の為、鉢合わせするのは時間の問題です。危険を察知したのか分かりませんが幸運なことに赤子は泣き止みました。権蔵は再び山へ入り、身を隠すことにしました。

 芳兵衛は烏たちと合流しました。

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