小説

『青い女たち』紗々井十代(『ジャックと豆の木』)

 初めて明かされたKの恋心は、空で瞬いて塵となった。
 「三日も経てば忘れるわ」
 ジャックの慰めには説得力がある。
 「女の子なんて、あの星の数ほどいるよ」
 色濃い宇宙には、地上で見るよりもたくさんの星々が浮かんで見えた。
 黙りこんでいたKは、一度ため息をつくと、それから思いっきり吸い込んで、
 「牧田ァー」
 と大きく叫んだ。
牧田ァーは、反響することなく青に溶けていった。
 それに胸を打たれたのか、ジャックも椎村くんの名前を叫んだ。
 椎村くーん。
 私は果たしてヤスの名前を叫んだものか迷っていると、モチが「ヤスー」と言うのが聞こえて笑ってしまう。
 仕方ないので私は三人の名前を叫んだ。ケイー。モモエー。ナオコー。それから四人でたくさん笑った。
 「一体大気圏まで来て、何をしてるんだろうね私たち」
 私たちの他愛もないコイバナは熱をもって輝き、地上には決して届かない。この青い大気圏内で燃え尽きて、甘い声で弾けて消える。まるで流星群のように。
 宇宙まであともう少し。

 ※

 意外にも私を最初に満たしたのは、ようやく休める、という喜びだった。
 「流石に疲れたな」
 Kがごろんと横になっている。私も横に並んで寝転がる。
 後から、モチとジャックもヒイヒイ言いながらやってくる。ほとんど這いつくばるような形で私の横に来ると、動かなくなった。
 「大丈夫?」
 「最初に登ろうって提案したの誰だっけ。許せん」
 モチは息も絶え絶えに怒った。
 四人並んでぜえぜえ川の字になりながら、私の胸にはようやく、ここまで来たんだ、という想いが浮かんできた。
 それも四人一緒に、一人も脱落せず。
 私たちはなんとか辿り着くことができたのだ。
 「ねえ。私達、来たんだよ」
 声に出してみると、胸の奥からずんずんと達成感が湧き出でる。
 「私達、四人で来たんだ」
 辺りには恐ろしい程の静寂と深い闇が満ちて、眼前にはまん丸い青がしっとりと光を放つ。
 私たちの青。かけがえのない青。
 「月までこれたよ。私達」

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