小説

『トゥルニエ女パピコ』義若ユウスケ(『竹取物語』)

「わたし、じつはまえからあなたのこと気になってたんだよね。ちょっとだけ。ほら、あなたってちょっとだけカッコいいじゃない? だからちょっとだけ気になってたの」
 ぼくは彼女の右頬を打ちぬいた。左フックで。だってムカつくじゃないか。ぼくは自己評価がスーパー高いのだ。自分の顔面偏差値はまじ百億万点だとおもってる。こんないい男をつかまえてちょっとだけカッコいいだなんておいおいおいおいおいおいおいって話だ。おまえの目はふしあなですかって話だ。
 火星人パピコは地面に転がった。道行く人々や屋台のおっさんたちが目を丸くしてこっちをみている。みせもんじゃねーぞクズどもが。ぼくは心のなかで全人類にむけて中指をつきたてた。
「いたいわ」といって火星人パピコが顔をあげた。
 うらめしげな表情をしている。なめた女だ。でもちょっと美人かもしれない。金髪色白高身長。鼻がすこしとがっている。むかしみたファンタジー映画にでてきたエルフの女王さまみたいだ。ぼくは彼女の裸を想像してみた。わるくないとおもった。
「ぼく、しょうじき異星人にはまったく興味ないんだけどさあ」と、ぼくは彼女に手をさしだしながらいった。「あんたはなんかエルフっぽくてキュートだし、日本語超上手であんまり異星人ってかんじもしないから、いいよ。合格。エッチしてあげる」
 火星人パピコがぼくの手をつかんで立ちあがる。
 やっぱでかい女だ。身長はぼくとぴったりおなじくらいだな。
 むかいあってみつめあう。沈黙。一秒、二秒、三秒……。
「おまえ、すげえ偉そうだな。なんで?」と彼女はいった。
「あ?」とぼくはいった。
 ぼくは腕をふりかぶる。右フックの準備だ。
 えい、発射。
 視界がぐらりとかたむいた。ぼくは宙を舞っていた。
彼女にカウンターをくらったのだ。彼女、ひらりとぼくの必殺右フックをかわすと、そのまま前に一歩ふみこんでぼくの鼻面に張り手をたたきこみやがった。すげえやつだ。
 ぼくは木の葉のように宙を舞い、地面におちるころには気を失っていた。
 目をさますとソファーのうえにいた。火星人パピコが滞在しているホストファミリーの家のリビングのソファーだ。二年前、うちの高校に長期留学生としてやってきた火星人パピコの歓迎会の二次会で一度ぼくもきたことがあったから、目をあけてすぐにぼくは自分がどこにいるのかわかった。
 体をおこすと、
「あら、おきたのね。もう午前一時よ」と背後から火星人パピコの声がした。
 みると、彼女は背の高い木製テーブルのうえで、裸で正座していた。

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