小説

『ちょろきゅう』太田純平(『たのきゅう(民話)』)

「オマエ、いつもどうしてんの?」
「ハイ?」
「カネ」
「基本的には、自販機で――」
「自販機?」
「拾ってます、カネ」
「自販機で?」
「ハイ。意外と落ちてますよ、お釣りのとこ」
 この不毛な会話は一体何だろう。てゆうか友達かよ。
 さすがに家に帰って、布団を被って寝た方がマシな気がしてきた。
 しかし沼田は僕に意外な提案をした。
「ファミマ行くぞ」
「ハイ?」
「コンビニだよ」
「……」
「買ってやるよ、ナンか」
「イエ、そんな――」
「遠慮すんな」
「イエ、自分、ダイジョブです。これがあるんで――」
 僕は筆箱の中から、チロルチョコを取り出した。僕にとってチロルチョコは、空腹を誤魔化す保険みたいなものだ。
 しかし沼田にとってチロルチョコは、悪魔の食べ物のようだった。『生クリーム入りmilk』と書かれた個包装を見せると、沼田は「げッ」と不快な顔をした。
「やめろ、しまえ」
「?」
「しまえって」
 僕はチロルチョコを筆箱にしまった。
「アレルギーなんだよ、チョコ。見るだけでかゆくなる」
「……」
 チロルチョコに怯える沼田を見て、もはや恐怖心は無くなっていた。
「いくら俺でも、体質はどうしようもねぇからな」
「……」
「お前、苦手なモンは?」
「ハイ?」
「俺だけ弱点さらしたんじゃフェアじゃねぇだろ」
 こいつは一体何を言っているのだろう。てゆうか友達かよ。
「虫か?」
「ハイ?」
「虫だろ」
「いや、虫は好きですけど――」
「ああそう」
「ハイ」
「で?」
「ハイ?」
「苦手なモンだよ苦手なモン。早く言えよ」
 僕は咄嗟に「親」だと言い掛けたが、苦手という概念に当てはまるのかと、妙に考えてしまった。
「なんだよ、言えよ」
 沼田がやけに急かすので、僕は日頃思っている事を口にした。
「女です」
「女ぁ?」
「苦手なんですよ、女子全般」
「何で?」

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