小説

『謎のパスモ』太田純平(『謎のカード』)

 意味が分かんねぇんだよ結局。
 たかがパスモで警察に尋問されたり、急にバイト先をクビになる理由なんて皆目見当がつかねぇんだよ。
 そう、親友に電話で力説した。
 すると親友はこちらの剣幕が尋常でないことを悟って、すぐに会おうと言ってくれた。
 親友とは小学校からの付き合いだ。お互い田舎から上京して、大学こそ別々だが、一人暮らしの家は徒歩圏内。別にゲイではないが、徹夜でゲームをして、一緒に寝落ちしてしまう事はよくある。
 横浜駅近くの喫茶店で、親友と会った。毎日のように見ているが、相変わらずマッチ棒みたいに貧弱だ。だけど今の俺にとっては、そんな親友がとても頼もしく見える。
「ゴメンよ遅れて。家でスーファミしてた」
「……」
「ナニ、どしたの怖い顔して」
「お前もどーせ、手の平返すんだろ?」
「えぇ?」
「お前もどーせ、パスモ見せたら変になんだろ?」
「パスモって……電話で言ってたやつ?」
「アァ」
「まぁとりあえず、闇のパスモ見せてよ」
「闇のパスモ?」
「だって、闇のアイテムなんだろ?」
「いや、アイテムっつーか……」
「早く、早く」
 親友は完全に楽しんでいる。まだ冗談だと思っているようだ。まぁ、そりゃそうか。
 恐る恐る、例のパスモをテーブルに置いた。何の変哲もないパスモを出されたので、親友は拍子抜けしたようだ。パスモよりも先にメニュー表を取った。
「なんだ心配したよぉ。いきなり電話してくるから」
「?」
「だっていつも会ってるじゃん」
「まぁ……」
 親友は頼みたいものが見つからなかったのか、メニュー表を元に戻した。ヤレヤレといった感じで、今度はパスモを手に取った。表、裏と眺めると、親友の時が止まった。みるみる顔が青ざめていく。
 普段は口調の優しい親友が俺に呟いた。
「お、お前……」

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