小説

『そして誰もが生き返ってほしかった』洗い熊Q(『クックロビン』)

「お前は余り酷い見た目じゃないよな。生前と変わんなくねぇ?」
「そう? そうかしら」
 啓太に言われ沙織が腰を捻って色っぽいポーズを取ったが、それを見て翔太がげんなりとした。
「いや……生きてる人から見たらキモいって。充分、グロいって」
「外傷が少ないって事は死因にも関係あるかもね? 気付いた時から変わらないの?」と巧巳が訊いた。
「そうねぇ、私が生き返った時は素っ裸だったかな?」
「素っ裸?」
 沙織が言った瞬間、男三人は上の空で黙った。想像した。そう妄想した。
「……ちょっと何を考えてんのよ!」と怪訝な顔を見せる沙織。
「いやいやいやっ。もしか風呂でも入ってたのかと考えただけだって」「ああ、そうだったかも私」
「でもさ、女子だから裸でも良かったじゃない」
「どういう意味よそれ」
「男だとさ、何か情けなくない? 裸で死ぬって……」
 巧巳の言い分に啓太が頷いていた。
「ああ、それ分かるわ……男だと何もかもユルユルでって感じだよな」
「顔も腹も緩みきってさ……チンチンだってふにゃふにゃで横たわってるんだよ、きっと」
 男三人はそれを想像し、げんなりと凹みながら一斉に呟いた。
「――情けないな、それ」
「一体、何に落ち込んでるわけ? 女だって裸で死んでたら情けないって」
「いや女の子だったら、こう、そう何て言うんだろ……」
 そう言い掛けながら、また男三人は上の空で妄想した。
「やめてっ! その妄想! その妄想の元手が私ってのがイヤッ!」
 と沙織は頭を掻き毟りながら吠えていた。

「ま、まあ、沙織は恐らく風呂に入ってたんだな。じゃあ溺死か?」
「でもさ沙織ちゃん、頚元に変な跡が付いてない?」と巧巳が指差しながら訊いた。
「ああこれ? そうなの、ネックレス外したら付いてたんだよね。ちょっと黒ずんだ感じで」
「締められた跡? でも綺麗に一直線だね」
「というか、お前はネックレスを着けたまま風呂に入ってるのかよ」と翔太が怪訝な顔で言った。
「えぇ? まあ面倒くさくて……」
「粗悪な貴金属で溶けて皮膚に転移したんじゃないか?」
「いや、それはないな。純粋なタングステン製だからないな」と啓太が言い切っていた。
 ふーんと他三人は啓太の言葉に納得する。
 だが直ぐに違和感と疑問に気付いた巧巳が訊いていた。
「あれ? どうして啓太君が材質を知ってるの?」
「――あっ」
 と思わずの声を出したのは啓太と沙織。そして二人はそのまま黙って俯いてしまった。
 その様子に他の二人は察しが付いたが、色々と言い訳できる状況だろうとも思った。
「お、お前ら、もしかして付き……」
「ないっないっない! してないっから! これ上げるから一回だけさせてくれって頼まれたけど、触らせてもいないってからね! 絶対」と沙織が慌てて不定した。
「あっバカ! それを言うんじゃねぇ」と狼狽しながら啓太が叫んだ。
 沙織の発言に驚き、口を開け唖然となった翔太と巧巳。
 だが直ぐに立ち上がって、座っている啓太を二人でふぐり蹴っ飛ばし始めた。
「痛いっ! 痛いって! 悪かったって魔が差しただけだって!」

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