小説

『キレイの在り処』十六夜博士(『みにくいアヒルの子』)

 先週はショック過ぎて、週末も家に引きこもっていた。そんなんじゃダメだと、今週末は強引に外に出かける事にした。いつもの様に都会を闊歩する気にもならないし、今の通常メイクじゃ不可能だ。なので、近くの公園を散歩する事にした。
 焦点も定まらない状態でトボトボと歩いていると、すれ違いざまに、「松田さん!」と声をかけられた。誰だろうと、声の方角を確認した瞬間、真由美は「ひっ!」と引きつけのような声を上げる。
――なんで……!?
 そこには、正人が立っていた。
「……」
 言葉が出てこないまま、口をパクパクしていると、「この前、ありがとう」と思わぬ言葉を正人は口にした。
――ありがとうって、なんで……!?
「この前、怒ってくれて、ありがとう。俺、本当は、禿げになりたかったわけでもないし、茶化されて嬉しいわけでもなかった。ただ、気にしてないように振舞っていただけなんだ。改めて、そう気づいたよ。あいつらも悪気はないのは分かっているけど、高校の時はイケメンとか褒めといて、禿げたらハゲーってバカにして。俺は、悠馬達に、ハゲ、ハゲ言うな、俺だって好きでハゲじゃないんだって、ちゃんと意思を伝えるべきだったんだ。嫌だと思っていることを相手に合わせることで、乗り越えている振りをする。それって違うよね。それに気づいたよ。俺がはっきり嫌と言わないから、松田さんが嫌な思いをして言ってくれた。嫌な思いさせてごめん」
 正人の意外な話に、真由美は首を左右に振った。
「そんなカッコいい事じゃないよ。あたしは自分がブスって言われてるように思ったの。だから、自分のために言っただけなの」
「ブス?それって、松田さんのコンプレックス?」
「だって、あたしブスだし……」
「ブスは言い過ぎじゃない?」
「じゃあ、美人?」
 正人はハハッと笑い、「さあね」とはぐらかす。
「どっちにしろ、松田さんは人の気持ちがわかるって事じゃない。それは素敵な事だと俺は思うよ」
「……」
 何だか騙された感じがする。
――あっ!
 真由美は、自分が特殊メイクしてない事に気づく。
「今日、お化粧してないのに、何であたしってわかったの?同窓会の時と違う顔でしょ?」と、恐る恐る聞いてみる。
正人は、「へっ?」と怪訝な顔をし、「だって、高校の時とあまり変わらないし。むしろ、同窓会のときの方が思い出しにくかった」と、真由美の質問の意図を測りかねているようだ。
――高校の時と変わらない……。
 意外と顔って覚えてるんだなと驚く。だとすると、特殊メイクはみんなを驚かせただけだったのかも……。菜々美が整形って言うのも当たり前か……。
 黙って思案を始めた真由美を見て、「俺、まずいこと言った?」と正人が心配し始める。
 真由美は、「ううん」とかぶりを振る。

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