小説

『キレイの在り処』十六夜博士(『みにくいアヒルの子』)

「えっ……!?」と、菜々美が声を上げる。
 菜々美が声を上げた意味は真由美にもわかった。
 真由美も、えっ……と声をあげそうになったからだ。

 菅原正人は、イケメンで有名だった。背も高く、モデルのような男子だった。言ってみれば男子版の菜々美。だが、性格も良く、明るいタイプで男子の中でも人気があり、中心的な存在だった。若干、女子の中で浮いている菜々美とは違った。当然、女子の憧れだったが、意外と奥手であまり浮いた噂はなかった。実は、真由美は、正人に憧れていた女子の一人だった。今日、同窓会に来たのも、正人に会える楽しみがあったことを否定できない。
 その正人の容姿が激変していた……。
 スキンヘッド――。
 なっ、なんでっ、と思う。もともとの端正な顔立ちだから、引き続きイケメンだが、学生時代とのイメージの違いが、真由美を含めちょっとした驚きを宴会場に引き起こしていた。
――学生時代は、フサフサの髪で、美少年という感じだったのに……。

「おっ、禿げたな!」とどこからか声が上がる。
 ――禿げ……!?
 ただのスキンヘッドじゃないんだ……、と驚く。
「うるせー!」と正人はにこやかに反応している。あちこちから、ハゲー!と茶化す声がするが、正人は気にする様子もなく、笑顔のまま、あちこちに手をあげて挨拶している。正人の人気は衰えていない。
「あー、なんかガッカリ……」と菜々美が肩を落とす。
「髪の毛がフサフサの美少年の正人くんが好きだったんだけどな―」
 あくまで、菜々美はあからさまだ。はなちゃんは、そういう菜々美の発言に眉根を寄せている。はなちゃんは容姿で何だかんだ絶対言わないし、そういう発言が大嫌いだ。これも昔のままだ。
「ハゲー、ハゲー!」
 悠馬も、正人を茶化し始める。
 正人はにこやかに真由美たちの席の近くにやってきて、「よう!、久しぶり」と笑った。悠馬は正人に抱きつき、正人の頭を楽しそうに撫でる。
「こらっ、やめろー」と、正人は楽しそうだ。
――なんで?こんなにいじられて嫌じゃないの……?
 真由美は胸が苦しくなってくる。
 ハゲー!
 ハゲー!
 ハゲーの合唱が、徐々に真由美の頭を占拠していく。

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