小説

『キレイの在り処』十六夜博士(『みにくいアヒルの子』)

 そのとき幸運だったのは、真由美の異変に両親と先生がすぐに気づき、積極的に問題解決に動いてくれたことだ。両親、先生が動いたことで、いじめは幸いにも終わった。いじめというのは始まるのも急だが、終わるのもあっけない。それ以後、いじめが再発することはなかった。しかし、このいじめが真由美の心に残したものは大きかった。自分が客観的にブスであることがわかってしまったし、それが真由美の自信を奪い、何事にも前に出ることができなくなってしまったのだ。
――みんな私の不細工な容姿を見て不快になるんだ……。
 それ以降、この歳になるまで、なんとなく日陰者のように生きてきた。だが、彼氏が一度もできることもなく30歳を目前にし、本当にこれでいい?、という思いもある。
 歳とともに、そんな思いが何度も頭をよぎり、整形を考えるようになった。ネット、本、広告など整形美容に関する情報を手当たり次第に集めた。だが、結局、整形には踏み切れない。顔にメスが入るのがやはり怖かったし、金銭的な面もあった。整形をあきらめかけたときに、偶然ネットで見つけたのがこの美容室だ。
『メイクで全く違う自分に変身!』
 そんなキャッチフレーズを見たとき、コスプレか何かを専門でやっている美容室かと思った。だが、詳しくホームページを見てみると、そうではなかった。容姿に自信がない人をメイクで劇的に変身させ、自信をつけてもらう――、とある。
――自分にピッタリではないか……。
 私のように、容姿に自信がなくて、生き方自体に自信を失っている人が他にもいるんだ――、と少し安心する。
 サンプルで載っている女性たちのビフォア—・アフターが信じらないほどの変貌を遂げていた。お世辞にも美人と言えない女性が、美人になっている……。
 メイクってこんなに人を変えるの……、と唖然とした。
 顔にメスを入れなくてもいい――。それも真由美には嬉しかった。すぐに連絡をとり、メイクをしてもらうようになった。
 始めてメイクをしてもらったときの衝撃は忘れられない。細い目のおたふくが、パッチリした目に変貌を遂げたのだ。さすがに通常のメイクだけではそこまで変えることができないので、若干特殊メイクのテクニックを使っている。でも、あくまでさりげなくだし、全く特殊メイクとわからない。それがこの美容室の企業秘密であり、売りでもある。
 週末に美容室にやってきて、メイクをしてもらい、一日だけ美女に変身する。
 これが真由美の今の楽しみになっていた。

 いつものように街に飛び出す。
 通常のメイクなら絶対にやってこないオシャレな街。真由美はここぞとばかりに街を闊歩する。
――天気もいいし、今日は気持ちがいい。
 手をかざして空を見上げる。やさしい日差しと青い空は真由美の心そのものだった。

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