小説

『ミスターブルーバードをさがして』村山あきら(『青い鳥』)

「このまま真っ直ぐに歩いていると、大きな扉とふつうの扉と小さな扉が見つかるよ。その内、大きな扉をくぐるんだ」
「大きな扉ね。分かったわ」
 千鶴と充はお礼も言わずに、そのまま歩き始めました。
 一度だけふっと後ろを振り返ってみましたが、もう誰の姿もなく真っ暗な闇が残されているだけでした。
「あのお婆さん、何者だったのかしら」
「あのお婆さん、何者だったのかな」
 姉弟は心細い気持ちになって、余所見もせずにひたすら真っ直ぐに歩き続けました。
 どのくらい経ったのでしょう。突然、目の前に三つの扉が現れました。
 大きな扉とふつうの扉、それに小さな扉です。
「ミスター・ブルーバードを探すなら」
「大きい扉をくぐりなさい」
 二人はお婆さんに教わった通り、大きい扉をくぐりました。
 扉を抜けると、そこは森の中でした。背の高い木がたくさん生えているせいで、昼間なのにお日様もみえません。
 姉弟は辺りをくまなく探してみますが、幸せの青い鳥はどこにもいません。
 「ミスター・ブルーバードはどこかしら」
 「僕、疲れちゃった」
 その内、充が地面に座り込んでしまいました。ずっと歩きっぱなしで足が痛くてしょうがありません。
「だめよ。幸せの青い鳥を探さなくちゃ」
 千鶴は弟の手を引っ張ります。
「でも、もう動けないよ」
 充は断固として立ち上がろうとはしません。
「きっと、お婆さんにだまされたんだわ」
 さっきから他の動物の姿だって見かけません。不幸でかわいそうな子供たちが途方に暮れていると、遠くからパカパカという軽やかな音が聞こえてきました。
「あれは何の音かしら?」
 不思議に思って音のする方に向かってみると、ちょうど二人の前を馬車が通り過ぎる所でした。
「わあ、すごいや」
 二頭の真っ白な馬が宝石でピカピカに飾られた豪華な馬車を引っ張っています。
「まぁ、きれい」
 まるでおとぎ話のお姫様が乗っているような素敵な光景でした。
 子供たちがうっとりと見とれていると、なんということでしょう。馬車が二人の前で止まったのでした。
 馬車の横についている小さな窓が開いて、中からはきれいなお姫様が顔を出しました。

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